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最低賃金引き上げは中小企業の生産性を高めるか?

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で1669人で、その内訳は東京298人、神奈川133人、埼玉88人、千葉79人、茨城55人、愛知138人、 大阪269人、兵庫107人、京都49人、北海道197人などとなっています。兵庫、茨城、京都、長野(24人)、大分(11人)の6府県で1日当たりの新規感染者が最多を更新しました。

加藤勝信官房長官は、定例の記者会見で、新型コロナ対策の一環としてGoToイートの見直しや営業時間短縮要請に応じた店舗への協力金給付について、「検討中」と繰り返しました。新型コロナ対策として具体的な施策はなく、「検討中」というだけで、明確に記者の質問に答えているとは思われません。

今日のニュースで、政府は、GoToイートの利用について「原則4人以下」とするよう都道府県に検討を要請しましたが、具体的な対応は各都道府県知事に任せました。またしても、自分らが責任を取らない形を作り上げています。この「4人以下」という案は、数日前に吉村知事が西村担当相に提案したものですが、大阪で第2波の時に行われた「5人以上の飲食自粛要請」(10月8日解除)を基にしていると思われます。この「5人以上の飲食自粛要請」の効果についてまだ検証がなされているわけではありません。このところの急激な感染者増が、会食の人数制限だけで押さえられるとも思えません。本当に新型コロナを押さえ込もうとすれば、必要なのは感染拡大が懸念される地域でのGoToキャンペーンの適用除外などもっと踏み込んだ対策です。相変わらず、経済優先、それも飲食店だけ不公平に優遇するような偏った施策で、新型コロナ感染予防がおろそかになっています。今後の爆発的な感染拡大が懸念されます。

こうした中、喜ばしいニュースとして、「米製薬会社モデルナで開発中の新型コロナウイルスワクチンが94%以上の有効性を示した」というのが飛び込んできました。先日のファイザー社のワクチンは-80度という超低温での保管が必要でしたが、モデルナ社のワクチンは通常の冷蔵庫保管で大丈夫なので、保管・輸送にも問題はありません。あとは、安全性と効果の持続期間です。政府はファイザー社のワクチンを来年6月までに6500万人分、モデルナ社のワクチンを来年9月までに2000万人分輸入する予定ですので、ワクチンが利用できて新型コロナが収束に向かうのは少なくとも1年ほどかかりそうです。その間、密を避け気を緩めることなく新しい生活様式を実践していくしかありません。

さて、今日は、現代ビジネスの「最低賃金『引き上げ』で、実は日本が”米国並み”の『超・格差社会』になる」という記事を取り上げます。

先日も書きましたが、菅首相は、成長戦略会議などで、中小企業の再編・淘汰を推し進めようとしています。この記事では、そうした菅首相の考えを「中小企業悪玉論」と呼び「『生産性の向上』という賭け声は立派だが、副作用に対する配慮や戦略が見えない」と批判的です。私もかねてから書いている通り、そのように思います。

安易に政策を実施すれば、淘汰される中小企業や失業して行く労働者がいたずらに増え、社会不安を引き起こすことにもなりかねません。

菅首相のブレーンの一人アトキンソンは「中小企業の生産性の低さ」を問題視しますが、前回も書いたように日本の生産性の低さは大企業にあります。大企業が下請け・孫請けといった中小・零細企業に低価格を要請し搾取すると言った構造を改革しない限り日本の生産性は改善されません。中小企業を淘汰してケリがつく問題ではありません。

中小企業を淘汰するために菅首相が以前から主張しているのが「最低賃金の引き上げ」です。最低賃金を引き上げて、賃金が支払えなくなった中小・零細企業を潰していこうというわけです。

この考えの根底には、「最低賃金を大幅に引き上げれば、人件費コストが上がった分、業務の効率化に取り組み、生産性を高めるに違いない。最低賃金が低いから成り立っている中小零細企業は潰れていい」という思惑があるのでしょうが、物事はそう簡単に進みません。

最低賃金が低いから大企業の搾取に持ちこたえている下請け・孫請け企業が多く存在します。最低賃金の引き上げはこうした下請け・孫請け企業まで淘汰してしまいます。そうなれば大企業にも影響を及ぼし、逆に日本全体の生産性をさらに押し下げることにもなります。また、低賃金の労働に支えられている企業の中には、デジタル化や自動化が難しいうえに、私たちの生活に必要不可欠な商品やサービスを提供してくれているものも多いのです。そうした企業が淘汰されれば私たちの生活にも重大な影響を及ぼします。企業が淘汰されるかどうかは、政府が強制力を持って行うものではありません。自然に淘汰されるべきもの、もっと言えば消費者のニーズや動向によって淘汰されるべきもので、それは中小企業だけでなく大企業も同じです。政府が行うべきことはそうした自然淘汰が出来るような仕組みや構造を作り上げることです。

最低賃金の引き上げについては反対する識者はほとんどいませんし、私自身も反対はしません。しかし、経済成長を大幅に上回るペースで最低賃金を引く上げるとそれに伴う弊害が多く出ます菅首相や政府が考えている最低賃金の引き上げは経済成長率を無視した大幅な引き上げなので問題なのです。

最低賃金の引き上げはすべての労働者、特に低所得者層は喜ぶはずです。しかし、経済成長率を上回るペースで引き上げがなされると、企業は人件費コストの上昇を抑えるために、解雇などの手段をとらざるを得なくなります。そうなれば、最低賃金の引き上げで救済されると思っていた低所得者層、非正規労働者派遣労働者が解雇されることになります。低所得者を救済するはずの政策が最も救済されなければならない低所得者を苦しめ、格差をし進める原動力にもなってしまいます。

この記事では、「最低賃金の大幅な引き上げが賛同されるのは、日本の現状をしっかりと博することなく、生産性が低いという数字だけを見てしまっているからだ」といっています。この数字の背景にはそれぞれの国によって生活様式や価値観、文化、税制、社会保障などの違いがり、一概に数字だけで比較するのは問題だというわけです。

アメリカでは、3人に1人が貧困層及び貧困層予備軍に分類され、格差角地は史上最悪の状態にあります。アメリカの生産性が高いと言っても、非正規労働者の割合が6割を占め、生産性を重視して医療費が高騰した結果、4人に1人が病院に行きたくてもいけない社会が作り出されました。生産性改革は、場合によってはアメリカのように中間層を没落させ、国民の分断を招きます。日本においても、アベノミクスで富める者と富ざる者とに分断され、格差が広がりつつあります。菅首相が行おうとする中小企業の再編・淘汰、そのための最低賃金の引き上げは、さらに格差と分断を助長するように思います。

この記事は、「日本の最低賃金をどのような位置づけにしたいのか、最低賃金の過度な引き上げでどの層が恩恵を受け、どの層が負担を強いられるのか、冷静に見極め、何が良い点で、何が悪い点か、差し引きでプラスかマイナスかという考えが欠かせない」と言っています。

そして、この記事の筆者は「中小企業への行き過ぎた保護策を改めて競争原理が機能する政策に転換することが欠かせない」と言います。しかし、コロナ禍で、中小企業に対する支援は必要です。中小企業に対する支援や保護策を辞めれば、多くの中小・零細企業がつぶれてしまします。今は時期ではありませんし、まずやるべきことは大企業が搾取するという構造的な問題を解消するための仕組みや構造改革です。

政府には安易な最低賃金に拘泥することなく、全体を俯瞰しながら、かつ、長期の視点を持ちながら、日本の実情に沿った政策を実施してほしい」という点には賛成です。