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年金制度改正法

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おはようございます。

昨日の新型コロナウイルスの新規感染者数は45人ですが、そのうちの15人は成田空港検疫で見つかった感染者です。現在、外国からの入国制限でインバウンド客は約95%減となっており、観光業界にとっては入国制限の緩和が待たれるところですが、このように入国審査で感染者が見つかると、まだまだ入国制限の緩和は難しいように思います。観光を含む経済活動を完全に再開させるには、「新しい生活様式」にあわせ、国内での移動の自由と国を超えた移動の自由が不可欠です。国内での移動の自由は6月19日には可能になります。しかし、国を超えての移動はまだまだ慎重に行うべきでまだ先の話です。海外から新型コロナウイルスが再流入すれば取り返しのつかない事態になります。新型コロナウイルスの感染者が激減し収束した国から順次段階的に制限を緩和していくのがよいでしょうが、韓国やイランのようにいったん収束したのち再度感染が拡大しつつある国があるので本当に注意が必要です。

さて、今日は新型コロナ関連ではなく、年金制度改正法について説明します。令和2年5月29日、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し6月5日に公布されました。新型コロナウイルス問題や黒川検事長の麻雀賭博問題などのさなかに審議され成立しました。国民にとって重要な法律なのに新型コロナ関連の裏に隠れてあまり話題になっていません。また、中小企業にとっても重要な内容を含んでいます。

今回の改正は、働き方が多様化し、高齢者の就業機会が拡大していることに対応するとともに、年金財政の安定化のため支え手を増やす狙いがあります。改正の主な点は次の通りです。

  1. 厚生年金の適用範囲の拡大・・・パートなどで働く短時間労働者の低年金対策として、厚生年金に加入しやすいように、加入条件のうち企業規模の要件を現在の従業員「501人以上」から、「101人以上」(2022年10月)、「51人以上」(2024年10月)と段階的に引き下げます。保険料の半額を企業が負担するため、中小企業にとってかなりの負担増になります。
  2. 在職老齢年金の見直し・・・「在職老齢年金」は働いて一定の収入がある高齢者の年金額を減らす仕組みですが、かえって高齢者の労働意欲をそぐことになっています。そこで、今回の改正で、60歳から64歳までの人について、年金が減額される基準を月額28万円から47万円に引き上げました。また、65歳以上の人については、「高所得者の優遇になる」との批判から引き上げをせず現行の47万円に据え置かれることになりました。
  3. 受給開始年齢、選択肢の幅を75歳まで拡大・・・従来年金受給開始年齢は60歳から70歳までの間で自由に選ぶことが出来ていました。これを、高齢者の就業機会の拡大に合わせて、年金受給開始年齢を60歳から75歳に拡大し、その範囲で自由に選べることとしました。年金額は、65歳より早く受け取りを始めた場合、1か月当たり0.4%減ります(現行の0.5%より縮小されます)。65歳より遅らせた場合は1か月あたり0.7%増えます。75歳から受け取り始めると、65歳から受け取る場合に比べ年金額は84%増えることになります(月0.7×12か月×10年)。
  4. iDeCo」が利用しやすくなる・・・「iDeCo」というのは公的年金に上乗せする確定拠出年金のことです。60歳未満とされている加入期間が65歳未満にまで延長される一方、60歳から75歳までの間で受給開始年齢を選択できます。また、申し込みがオンラインでもできるようになります。「iDeCo」は掛金や運用益が非課税となるため老後の資産形成につながることにもなります。

以上のような改正点がありますが、今後の課題もあります。

まず、今回の改正の議論の過程で「雇用されている人はすべて厚生年金に加入できるようにすべき(企業規模要件を撤廃すべき)」という意見もあったようですが、保険料負担が増える企業側に配慮して今回は見送られました。高齢者の年金の拡大という観点から、さらなる適用拡大は今後の課題となります。適用範囲を広げるなら保険料負担増となる中小企業への配慮も検討課題とする必要があるでしょう。

次に、基礎年金の充実が課題となります。基礎年金の将来の給付水準が、厚生年金に比べて大きく低下する懸念が出ています。基礎年金の給付水準を引き上げるため60歳までとされている国民年金の加入期間を65歳までに延長し45年間とする案も出ましたが今回は見送られました。基礎年金の半分は国庫負担・税金で賄うため加入期間の延長は税の引き上げとセットで行うべきとの意見もあります。

最も大きな問題は新型コロナウイルスの影響です。今回の改正で、厚生年金の適用が拡大され保険料負担が増える業種は、パート従業員が多い旅館業や外食チェーンなどです。これらの業種では新型コロナの影響で経営自体が苦しくなっています。新型コロナの影響を考慮してスケジュールを遅らせようという意見も出ましたが、労働者の年金を確保する必要があるとして、政府・与党によって押し切られました。

コロナの影響がいつまで続くか分かりませんし、コロナが収束してもこれらの業界がいつ元に戻るのか分かりません。保険料の負担がさらに大きく企業にのしかかり経営を悪化させたのでは、雇用者の老後の生活を守るどころか失業・廃業へと追いやってしまいます。負担の増える企業に対する対策をあわせて考えなければなりません。特にコロナで大打撃を受けている業種ではなおさらです。

新型コロナ禍で十分な審議・議論もせずに通してしまうような案件ではなかったはずです。コロナ収束後に時間をかけて審議してよかった案件です。コロナ終息後の経済と現役世代の老後の安心を守るために年金財政をどのように維持していくか、引き続き議論をして再度改正する必要があるなら改正すべきです。