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休日の本棚 「仕事ができる」とはどういうことか?

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で3432人、そのうち東京1271人、神奈川446人、埼玉290人、千葉277人、愛知67人、大阪254人、兵庫81人、京都38人、福岡58人、沖縄76人、北海道73人などとなっています。東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県で感染が拡大し、3県はまん延防止等重点措置の対象区域を拡大、神奈川は神奈川版緊急事態宣言として酒類の提供禁止を要請しました。大阪、兵庫でも感染者数は増加傾向にあり、早晩緊急事態宣言発令を要請することになりそうです。こうした中、東京五輪まで6日となりました。大会組織委員会がとるバブル方式は穴だらけ、ルール違反の選手、大会関係者、マスメディアが多数存在し、これらの人が感染拡大の一翼を担わないことを願います。

さて、今日は、楠木建&山口周著「『仕事ができる』とはどういうことか?」(宝島社新書)を紹介します。

楠木建氏は、これまでも何度も紹介していますが、「ストーリーとしての競争戦略」などの著者で一橋大学ビジネススクール教授です。また、山口周氏は、ライプニッツの代表で一橋大学大学院経営管理研究科非常勤講師、「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」などの著書があります。

この本は、楠木氏と山口氏が対談形式で、「仕事ができるとはどういうことか?」について語られています。ここで語られているのは「仕事ができるためにどうすればいいか?」ではありません。楠木氏が言われるように、「仕事ができるための方法」、つまりHOWについては答えがありません。それは一人ひとりの置かれた状況、性格、仕事の内容によって違ってくるでしょう。確たる答えはないのです。ここで語られているのはWHATです。WHATが明らかになればWHYについての理解も深まります。また「仕事ができる人とはどういう人か?」、つまりWHOについても語られています。WHOを知ることで、WHATの正体に近づくことができるからです。

楠木氏は、「仕事ができる」ということは「成果を出せる」ことだと言います。「頼りになる」「安心して任せられる」「この人なら何とかしてくれる」もっと言えば「この人じゃないと駄目だ」と思わせる人が「仕事ができる人」です。

これまでの多くの本は、「仕事ができる」ための方法についてスキルを重視してきました。それでハウツー本として人気を博したものもあります。しかし、果たして「仕事ができる」というのは単にスキルの問題でしょうか。スキルが役に立たないというつもりはありません。私も、スキルが仕事ができるために重要な要素であることは否定しません。しかし、いかに優秀なスキルを持っていてもセンスがなければ成果を上げることはできません。仕事能力の本質はスキルを超えたセンスにあるのです。と言っても、スキルは育てることができますが、センスを育てるこれと言った方法はありません。だから、人はスキルに飛びつくのです。しかし、センスを磨かなくして成果を上げること、つまり仕事ができる人にはなることはできません。

この本は、そのセンスの正体を明らかにして、センスを磨くにはどうすればいいのかについて語ってくれています。

この本は、4つの章で構成されています。 

第1章 スキル優先、センス劣後の理由

  • アートとかセンスには、アカウンタビリティ(示せる・測れる)がない。スキルは、「できる・できない」「資格を持っている」など他者に容易に示せる。これに対してセンスというのは一例で言うと「女性にモテる」。特定の尺度で測れないし、すぐにモテるという状況を見せられるわけでもない。スキルはエビデンスとして言語化・数値化して示すことができるが、センスのエビデンス言語化・数値化が難しい。スキルと違って「定型的・標準的な方法」がない。
  • スキルは正しい方法の選択と努力、時間の継続的投入さえ間違わなければ、間違いなく、以前よりは「できる」ようになる。一方、センスは、ない人が頑張ると、ますますヘンなことになってしまう。要するに努力と得られる成果の因果関係が極めて不明確である。
  • 昨今では「役に立つ」というものがそもそも求められなくなっている。「役に立つ」から「意味がある」にシフトしてきている。日本の企業の多くは「役に立つ」ことで世の中に価値を生み出してきた。相変わらず「役に立つ」という軸での価値創造からシフトできないでいると、そのうち逆に「役に立たないもの」を生み出すことになる。「役に立つ」という軸から離れられないのは、「役に立つ」はスキルとサイエンスで何とかなるけれど、「意味がある」にはセンスとアートが必要になるからだ。
  • 商売というのは本質的に問題解決である。一つひとつ問題が解決されれば、いずれはすべての問題が解決され、商売もネタが尽きるように思える。ところが、商売には終わりがない。問題解決自体が新たな問題を生み出すからだ。新たな問題設定というのはセンス・アートの領域に入ってくる。
  • 論理と直観はそれぞれ異なった性質を持っているが、論理(スキル)は直観(センス)を必要とする。つまり、出発点においては問題を発見・設定するためには必然的に直観が求められる。先ず直観がなければ論理というものはあり得ない。起点委はスキルではなくセンスがある。
  • スキルとかサイエンスというのは、常に価値基準が外在的にはっきりしているので、いいこともあるが、それゆえ限界もある。「個性の時代」とか「多様性の時代」とか言われるが、多様性や個性はスキルとは折り合いが悪い。弱い人ほど「法則」を求めたがる。
  • 自分自身で形成された価値基準があること、それに自覚的であること、これが「教養がある」ということ。どんなに多くのことを知っていても、世の中の出来合いの価値基準に乗っかっているだけでは教養があるとは言えない。教養形成の本質はアートでありセンスにある。

第2章 「仕事ができる」とはどういうことか?

  • スキルは必要だが、スキルだけだとその人に固有の価値とはなりにくい。スキルを高めれば仕事ができるようになるが、それは特定のスキルセットが対応した領域にはまった時に「できる」という話で「仕事ができる」というわけではない。
  • 仕事ができるというのは、この人だったら大丈夫、どうしても必要とされている状態のこと。これは、スキルの単純延長線上に必ずしもあるわけではない。スキルのある人は掃いて捨てるほどいる。代わりになる人はいっぱいいる。このレベルだとマイナスがないだけでゼロの状態。ゼロの状態からプラスを作っていくのはその人のセンスにかかっている。これが仕事ができるということ。
  • スキル的な競争は「希少資源の取り合い」である。センスは千差万別なので、そもそも競争にも乗らない。強いて言えば、過去の自分との比較競争である。自分で練り上げていくしかない。試行錯誤しながら自分の身の置き所を定めてそこで自分に独自のセンスを深堀りするしかない。
  • スキルの場合は事前に自ら意図して「こういうスキルを身につけよう。だからこういう方法をとって」となるのに、センスとか才能は「自分にはこんな才能があったんだ」とある瞬間に気づくという面がある。事前の計画どころか自己認識や自己評価もできないという面がセンスにはある。
  • 全方位的にセンスがあるという人はいない。本当にセンスがある人は単にセンスがあるだけでなく、自分のセンスの「土俵」がよく分かっている。これが自分の仕事なのか、そうじゃないのかという直観的な見極めが実にうまい。しかし、スキルならば自分の土俵化は先験的に分かるが、センスの場合その仕事が自分の土俵かどうかの見極めは難しい。そこを見極める力というか五感が大事。

第3章 何がセンスを殺すのか

  • 若いうちは運動エネルギーでガンガン走っていても、それが徐々に位置エネルギーに転換していき、社長になると位置エネルギーが100%、運動エネルギーがゼロになる。これがビジネスパーソンの「エネルギー保存の法則」。実力主義の社会では人は能力を発揮できなくなるまでは出世するので、組織の上層部はやがて必ず無能な人によって占められ、下層部にいるまだ能力発揮の余地のある人によって駆逐されるというのが「ピーターの法則
  • 自分の地位や経歴に固執して位置エネルギーを求めるのは人間の性である。仕事ができない人は、エネルギー保存の法則にはまって、行動ではなく位置(状態)を求めて、本来持っているはずのセンスを殺してしまう。状態ばかりを指向する人は、生き残る為の「状態」がゴールになっていて「生き残って何がしたいのか」という「行動」が無視されている。リーダーは「何をしたいんだ」という「行動」を表明すなければならず、この意思の表明が本来の経営である。
  • 「仕事は仕事」と割り切りというのもセンスがある人の一つの特徴である。仕事ができる人というのは、もちろん仕事は情熱を持ってやるが、一方で仕事をしている自分を客観視し、ちょっと醒めたところがある。仕事ができる人は、仕事人たる以前に一人の人間、生活者であるという意識が伝わってくる人が多い。
  • 仕事ができない人は箇条書きが好き。To Doリストが好き。並列的な思考を持っている。並列的な思考の問題点は、時間的な奥行きがなくなることである。並列的な思考がセンスを殺す。「So What?」が捨象されてしまう。並列的な思考だと成果への繋がりという論理展開がなくなってしまう。論理というのはあることと別のこととの間の因果関係だから、そこには必ず時間がある。論理は常に時間を背負っている。
  • 「初めからシナジーなんかない。それは自分で作るんだ。」結果的にシナジーを手に入れたとしても、それは自分がいろいろな物事をある時間配列の中で組み立てていった結果としてできるものだ。
  • 思考や構想には時間的な奥行きがあり、論理でつながっている。順列で考える優れたリーダーには人がついてくる。そこにストーリーがあるからだ。数字や目標では人はついてこない。
  • 戦略はすべて特殊解であって、すべてが文脈に依存していて一般的な解はない。逆に言えば、論理を積み重ねていきついた解が他者と同じであれば、それは論理的に正しくても最適解ではない。「独自のストーリー」があるから、同じものでも違って見える。
  • ビジネス書でも「必殺技伝授の書」が実に多い。ストーリーやシークエンス抜きにひたすらワンフレーズ理解とかキーワード理解になっている。なぜ、飛び道具や必殺技のようなものを求めるかと言うと、仕事のできない人は、だいたい「アウトサイド・イン」の思考様式だからだ。最適な解がどこかに落ちているはずだからと幅広く外部にある者にサーチして、そこからいいものをピックアップして問題を解決しようとする。こうしたアウトサイド・インにセンスを殺す要因がある。
  • 仕事ができる人の思考の軸足はインサイド・アウトにある。完全な未来予測はできない。情報は不完全でも、自分なりのロジックやストーリー、自分なりのハッピーエンドみたいなものが見えている。もちろん知らないことはいっぱいあるけれど、「分からなかったら後で取りに行けばいい」というのがインサイド・アウトの考え方である。
  • 競争優位を左右する要因としてはヒト、モノ、カネの中でも、やっぱり人が大事である。それも人の能力やスキルよりもモチベーションが大事になる。アウトサイド・インではなくインサイド・アウトのベクトルの熱量の強さである。

第4章 センスを磨く

  • センスはフィードバックがかからないので、ない人はないままいくことになる。これがセンスの怖いところである。センスのない人はそもそも自分のセンスがないということをわかっていない。フィードバックに気づくということもセンスである。
  • センスというものの本来の性質に戻ると、極めて相対的だったり、全体だったり、綜合的なものである。裏を返すと、センスというものはその人の一挙手一投足に表れている。センスのある人の一挙手一投足、メモの取り方、商談相手への質問の仕方、会議の回し方、デスク配置、食事の食べ方、鞄の中身などすべてにセンスが含まれている。一緒にいれば何でも学びになる。センスのある人が身近にいればその人をよく視る、これが一番手っ取り早いセンスの錬成法である。大切なのは「全部視る」こと。その人と一緒にいたい、好きになることができれば、全部視ることは苦にならない。
  • センスというのは生得的、先天的なように思われがちだが、実際には事後的、後天的なものである。それぞれに試行錯誤をかけて練り上げていったものである。
  • 大きな人こそ自分を小さく考えている。だからこそ他者に対して注意が向く。相手の立場に立ってものを考えることができる。自分に都合がいいように考えない。自己中心的に考えない。これが人間洞察の基本にある。器が小さい人は自分が大きい。自分のことが頭いっぱいで、自己を客観視できない。自分が小さい人は頼りにされても安易に人に頼らない。貸しが多いのに回収しない。
  • センスというものの中身は「具象と抽象の往復運動」である。ビジネスというのは、結局のところ具体じゃないと意味がない。具体じゃないと指示できないし、結果は絶対に具体的で、どんな問題も具体的に表れる。しかし、超具体を見ても「要するにこういうことだな」という抽象化が頭の中にあって、そこで得られた論理を頭の中の引き出しに入れている。この引き出しがやたらに充実しているのがセンスのある人である。
  • センスのある人は、すごく具体的な問題があっても、まず自分の頭の中の引き出しを開ける。「これってこういうことじゃないか」と該当する論理を取り出してくる。「どうもこの問題の本質はここにありそうなので、こうやったら解決する」となって最後に具体的な指示が出る。これが「具象と抽象の往復運動」である。優れた経営者は日常の仕事の中でこの往復運動を呼吸するようにやっている。超具体の問題が「要するに」という一言ですごく高いところまでいく。この揺れ幅の大きさと頻度、スピードがセンスである。
  • ビジネスにおいては未知の新しい減少が響出てくる。ところがそれを一度自分なりの論理というか抽象の方に上げている人にとっては、「いつか来た道」「いつかどこかで見た風景」になっている。だから新しい事象についても確信をもって素早く判断できる。「ブレない」「意思決定が早い」ということ。

この本は、スキルよりもセンスが重要と言っているわけではありません。スキルとセンスのどちらが重要かは、その時々の状況によります。両者はともに重要ですが、その重要性は文脈や立ち位置によって変化するということです。

今流行りの「スキル」の獲得だけに注力するのではなく、「センス」も磨きましょうということです。

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