中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 シンキング・バックワーズ 「逆から考える」

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で489人、そのうち東京87人、神奈川22人、埼玉26人、千葉21人、愛知44人、大阪74人、沖縄13人となっていますが、北海道96人、宮城30人と北海道と宮城で増えてきています。

休日で検査件数が少ないことから減少していますが、全体的な傾向は緩やかな減少から増加に転じていると言ってよいでしょう。北海道知事や愛知県知事が第3波と危機感をあらわにしていますが、政府は経済優先一辺倒であまりも危機感が感じられません。欧米の状況を見ると感染者が急増しており、対岸の火事と暢気に構えていることはできないように思います。しっかりとした新型コロナ感染防止対策をとり、状況を見極めながら経済とバランスをとることが重要です。

経済産業省は、新型コロナ感染拡大で打撃を受けた中小企業を支援する「持続化給付金」の予算を3140億円増額すると発表しました。新型コロナ禍で苦境に立たされている中小企業を支援することは重要で、まだまだ必要な政策です。しかし、持続化給付金には申請手続きが容易なだけに不正受給も多く、申請後のチェックを強化し、不正発覚時には重いペナルティを課すことも必要だと思います。

さて、今日は文化の日で休日なので本の紹介です。ロブ・ヴァン・ハーストレッチト&マーティン・シープバウアー著「すべての仕事は『逆』から考えるとうまくいく」(日本実業出版社を紹介します。

著者のハーストレッチトはBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)出身、シープバウアーはマッキンゼー出身のコンサルタントです。彼らプロが実践するシンプルな思考法が「シンキング・バックワーズ」、つまり「『逆』から考える」ということなのです。

何故プロジェクトは成功しないのか? それは、そもそもアプローチの仕方に問題があるというのです。問題を定義し、できるだけ多くの情報を集め、入念に分析してから最後に解決策を考える。これが通常の思考の順序ですが、この思考法では真のゴールにはなかなか辿れないと言います。逆から考える「シンキング・バックワーズ」なら「説くべき問題」を的確にとらえ、成果を出す解決策を導き出すと言っています。

「『逆』から考える」とはどういうことでしょうか? それは、問題そのものではなく、理想や目的を考えることから始める問題解決法です。つまり、問題を分析するのではなく、最初からはっきりとした解決策に注目するのです。

ビジネスにおける問題解決には次の5つのステップが必要になります。

  1. 目標を設定する。
  2. 分析のためのフレームワークを構築する。
  3. 分析を実行する。
  4. 解決策を策定する。
  5. 利害関係者と連携する。

本書は、この5つのステップを取り上げながら、「逆から考える」ことのメリットと、どのように逆から考えるかを解説してくれています。

先日来、しつこいくらいに「手段の目的化」「手段と目的の履き違い」と言っていますが、これは目標・目的を明確にせず、解決策(手段)を先に考えるから起きるように思います。この本が提唱する「逆から考える」という思考法なら、まず最初に目標・目的を設定し、その後に分析、解決策と進んでいくので、手段と目的が明確に分けられ「手段の目的化」は起きなさそうです。

本書は上記5つのステップに合わせ5章で構成されています。

  1. chapter1 目標を設定する ― 問題を目標に変える・・・ここで重要なのは、なぜ目標をしっかり設定できないのか?ということです。それは、「何をやりたいのか」をよく理解していないからです。聞こえのいいこと、つまり時の流行りやブームについ乗っかろうと何も考えることなく手を出してしまうのです。目標や理想をはっきりされるいい方法は、目的と、それぞれに対応する解決策を簡単な図にまとめることです。目標がクリアになればなるほど、対応する解決策の領域がよりはっきりと絞り込まれます。目標設定のポイントは ①方向性 ②測定可能な目標 ③基本方針 の3つです。そして何よりも重要なのは口先だけでなく行動に移すことです。従って具体的な行動プランを示さなければなりません。起きな目標には根本的な変化が求められることを忘れてはならない、つまり、「痛みなくして収穫なし」と言っています。
  2. chapter2 分析のためのフレームワークを構築する ― 問題を逆から考える・・・いい分析とは、目的に至るための有効な解決策を見つけるのに役立つような質問への事実に基づいた答えのことです。スタート地点を最後に置き、そこから遡って進む、これが「分析のためのフレームワーク」で「どの分析がどの目的に、なぜ結びつくのか」を定義するものです。分析のためのフレームワーク構築には、①質問型アプローチ=目的をいくつもの質問にかみ砕く ②解決策型アプローチ=試す価値ある解決策の仮説をあげる ③段階的アプローチ=一つの解決策を順を追ったステップに分割する の3つのアプローチがあると言います。どのアプローチにもメリットとデメリットがあるので状況に応じて適したアプローチを選ぶことが必要ですし、場合によっては複数のアプローチを組み合わせることも必要です。また、分析の段階で、何度のフレームワークをチェックし、修正することも必要です。
  3. chapter3 分析を実行する ― 「合理的な疑い」を超える・・・いい分析とは、決まった質問への答えを出したり、仮説をテストしたりすることです。分析のためのフレームワークでは、データ収集を始める前の段階で「だから何なのか」という論理が始まっており、「発見」がすんなりと答えに、解決策に結びつきます。だから、分析のフレームワークを見直し、パズルのどの部分を解けばいいのか、いつ論理を調整すればいいのかを考える必要があるのです。そしてデータ収集、分析は「合理的な疑い」を超えなければならないのです。論理なき分析は役に立ちません。分析にはヘビーアプローチとライトアプローチがありますが、大事な疑問や仮設にはヘビーアプローチを、それ以外にはライトアプローチをと労力を使い分ける必要があります。ヘビーアプローチを使うには①事実を基に考える ②一次情報源にアプローチする ③複数のソースを参考に自らの仮説を検証する ④結果確認のために、感度分析・シナリオ分析を使う、ということが必要です。
  4. chapter4 解決策を策定する ― 決断だけでは意味がない。施策実行に意味がある・・・解決策というものは、問題に焦点を合わせたら爆撃機のように攻撃し、目標が達成されるまで手を緩めることのない、より積極的な施策なのです。常に、次の3つを持って解決策を見直すことが必要だと言います。⑴目標ははっきりしているか? ⑵行動を伴っているか? ⑶両者を結び付ける論理に説得力はあるか? です。完璧な解決策という者はありません。最低2つの代替策を磨き上げることが必要です。最も大事なのは、理論と事実をしっかりと把握したうえで自分たちの行動方針だと信じられるものと、そこに熱意を持って取り込めるかどうかだと言います。
  5. chapter5 利害関係者と連携する ― 「ボートをどう揺らすか」・・・目標が大きかろうと小さかろうと、一見優れたアイデアでも結果を出すことは難しいのです。ボートを揺らせば揺らすほど、人はその場にしがみついてしまうからです。しかし、だからと言ってボートを揺らさないことには何も始まりません。これを乗り越えるカギはリーダーシップです。大きな変化を起こすには、失敗への不安をかき消すような、強い光が必要なのです。人は本能的に施策が意図することを避けたり遅らせたりする傾向にあります。抵抗勢力に立ち向かうには、それを打ち破ることのできる論拠と強いリーダーシップが必要です。目標を達成するためには一つや二つの行動では足りません。気持ち(決意)とリソースと環境を整えなければなりません。成功に向けた状況整理(適任者、優先事項の設定頻繁なモニタリング)が必要になります。

最後に本書では、誰もが2倍効率的にビジネスの問題に取り組めるように、3つの原則について、8つの質問を提示しています。これに答えることで現在取り組んでいるプロジェクト、今後取り組むプロジェクトの参考になると思われます。

逆から考える・・・問題解決とは、問題について考えることではなく、目標と解決策について考えること

⑴チームが問題や分析ではなく、解決策について考え、話し合いを始めたのはいつか?

⑵初日からチーム全員がきちんと目標をシェアできていたか?

「合理的な疑い」を超える・・・意識改革は論理、事実、そして仮説を磨き上げるところから生まれる

⑶分析のためのフレームワークは作ったか?

⑷意思決定者は「提案された解決策はよく練られており、『合理多岐な疑い』を超えられるものだ』ととらえていたか?

⑸解決策の重要部分は、しっかりした分析、データ、仮説のブラッシュアップによって裏付けられていたか?

意思決定そのものには意味がなく、施策実行がすべて・・・意思決定だけでは人は動かない。行動を促す施策のみが人を促すことが出来る。

⑹組織は動いたか?

⑺施策は可視化されていたか?

⑻目標は達成できたか?

そして、最後に「逆から考える準備はできたか?」という質問で締めくくっています。

「逆から考える」ということは「先を見据える」ということです。

分析のためのフレームワークを作り、解決策を考えたり、周囲の人々に目標(目的)を確認する、そのうえで、データに裏付けられた考えを提示し、誰もが「これなら目標(目的)を達成できる」と納得できるまでの施策・解決策を考えることです。

企業には抱えている多くの課題があり、それは企業によって様々です。時代の流れや流行に振り回されることなく、自社が抱える課題に真摯に向き合い、自社の目標(目的)を設定し、その目標(目的)達成の筋道を逆から考えてみれば、手段と目的とをはき違えることなく、目的に合った手段が見つかるはずです。

本書の「逆から考える」という思考法を参考にしてみてください。

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逆・タイムマシン経営論 優れた経営者には『いつか見た風景』という引き出しがある

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で614人、そのうち東京116人、神奈川66人、埼玉33人、千葉24人、愛知48人、大阪123人、沖縄27人、北海道69人などとなっています。本来であれば、休日の検査件数が少ない時の結果なのでもっと減少していてよいはずですが、これまでと比べ大きな数字になっています。特に北海道と大阪が心配です。第1波の時、北海道での感染拡大で鈴木知事が北海道独自の金融事態宣言を発令し、そこから全国的な感染拡大が始まりました。今回も北海道の感染拡大が全国的な感染拡大の幕開けとならなければよいのですが。

大阪は東京を超える感染者数になり、危機的状況です。大阪都構想住民投票も終わり、僅差で否決されました。都構想のメリットについて合理的な説明がなされず、説得力を欠いたことが大阪維新の会の敗北の一要因ですが、昨日も書いたように「今はそのタイミングではない」ので、それを拒否した大阪市民の良識に安堵しました。都構想は大阪維新の会の旗印、存在理由と言えるものですが、それが否定されて、大阪維新の会の求心力が低下するように思います。都構想というのは制度・システムの改変にしかすぎません。つまり、都構想は目的ではなく手段にしかすぎません。ここ最近何度か書いていますように、「手段の目的化」「手段と目的とを履き違えている」というケースが往々にしてあります。大阪維新の会が都構想で実現しようとしたことは、現行の都市制度の中でも必ずしもできないというものではありません。府市の連携を強固にして府市のねじれをできるだけ解消することも必要ですし、2025年大阪万博、インバウンドの再拡大をどのように大阪の成長、大阪経済の発展に取り込むのかを考え、その未来像を描くことが重要です。また、大阪に多数存在する中小・零細企業や町工場の後継者不足の解消も少子化問題と関連して重要課題です。それ以前に、新型コロナ感染防止対策です。

大阪都構想は決着がつきました。あとは、吉村知事、松井市長には全力を挙げて新型コロナ感染防止対策と大阪経済の復興とをバランスよく行ってもらいたいものです。

今日は、これと言って取り上げようと思った記事はありませんでした。そこで、日経ビジネスの「優れた経営者には、『いつか見た風景』という引き出しがある」という記事を取り上げます。

一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と社史研究家の杉浦泰氏が共同で行うオンラインゼミナール「逆・タイムマシン経営論」というのがありますが、先日それが書籍化されました。タイトルの面白さから購入し読み始めていますので、近いうちに「休日の本棚」で取り上げる予定でいます。

これまで多くの企業が、日本よりも先を行く米国などのビジネスモデルを輸入する「タイムマシン経営」に活路を見出そうとしてきました。しかし、それで経営の本質を磨き、本当に強い企業になれるのでしょうか?むしろ、大切なのは技術革新への対応などの過去の経営判断を振り返り、今の経営に活かす「逆・タイムマシン経営」だと主張しています。

詳しくは、「休日の本棚」で紹介しますが、人間は「今、目の前で起きている状況がこれからもずっと続く」という錯覚に陥りやすく、それは高度成長期でもバブル期でも、現在の新型コロナ禍でも同じです。そして、過去の様々な時点で、未来予測をしてきましたが、予測というものは本質的に間違うものです。予測は誰にもできない、誰でも外すと言った方が正しいのです。しかし、変わらない本質的な部分が存在します。

本質が分かっている人と、そうでない人との違いは、「何か起こった時に『いつか見た風景』という引き出しがあるかどうか」だというのです。そして、経営判断のためにそうした「引き出し」を増やしておくことが有用であると言っています。

本書に登場する、サイゼリアの堀埜社長は、「キャッシュレス決済」の話が入ってきた時に、瞬時に、店のオペレーション・什器・来客時間・性別などが変わっていくと読み取り、その上で「すぐに導入しない。ある程度普及してからで十分」と決断しました。「引き出し」のない経営者だと「時代がキャッシュレスを求めている」とすぐに飛びつき、無駄な投資をすることにもなりかねないのです。「引き出し」を持っていると適切な経営判断ができるのです。

「歴史は繰り返す」と言われますが、過去の歴史的事象の中にも変わらない本質的な部分があります。自分の会社の社史の中にも変わらない本質的な部分があるはずです。それらをしっかりと掴まえて「引き出し」にしまっておく、そして必要な時に「引き出し」から出して考える素材にするということが重要なのです。

何事においても変わらない本質的な部分は存在します。その本質的な部分をしっかりと理解していないと時代の流れに翻弄され、何度も言うように「何が目的で、何が手段か」が分からなくなってしまいます。目的達成の手段にしか過ぎないものが目的に昇華され、本来の目的・本質を見失った結果、目的化された手段だけで自己満足化してしまうのです。

これまでも取り上げているデジタル化やDXにしても、社会の流れで飛びついても、何の役にも立ちません。自社が抱える課題を解決するに本当に必要かを判断したうえで導入すべきなのです。そして、その判断には、「引き出し」が必要なのです。この「引き出し」に仕舞われている「いつか見た風景」というのは、過去に自分や先人たちが経験した事象が含まれるのです。過去に同じような事象が起きたときに自分や先人たちがどのように対処したのかということです。当然、全く同じ事態は起こりませんが、変わらない抽象化された本質が存在するはずです。それを思考や判断の指針として現在の課題に対処するということです。経営においても過去から学ぶということが重要です。日本の企業の場合、特にアメリカのカタカナ経営論や最先端の経営理論を振りかざしてみても、その土台が違うのでうまくいしません。その意味では「逆・タイムマシン経営論」は役に立つはずです。

面白い本なので読み終われば紹介します。

休日の本棚 「悪知恵」のすすめ

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で、そのうち東京215人、神奈川65人、埼玉30人、千葉37人、愛知97人、大阪143人、沖縄32人、北海道81人などとなっています。北海道では札幌ススキノの接待を伴う飲食店でクラスターが発生するなどして2日連続で過去最多を更新し、感染拡大が止まりません。愛知では8月21日ぶりに90人を超え小規模なクラスターが県内全域に広がっていると注意を呼び掛けています。大阪は、感染流行の第2波が襲った8月中旬並みに増え、10月下旬からクラスターが相次いでいます。朝日新聞のデータによれば、陽性率が東京では前週と今週とでほとんど変化がないのに(前週3.4%→今週3.5%)、大阪では、前週4.0%から今週5.6%と大幅に上がっています。吉村・松井の両氏が都構想で浮かれ、新型コロナの感染防止対策が後回しにされているからです。

今日、大阪と競争の住民投票が実施され即日開票されます。

大坂でも、多くの企業がコロナ禍で苦境に立たされています。都構想の住民投票に要する費用は約10億円です。また都構想の初期費用は241億円とも464億円とも言われています。それらの費用をかけてどれだけのメリットがあるのか疑問です。現状維持か都構想かという点ではそれぞれメリット・デメリットがあり容易に判断できません。ただ、言えることは今このタイミングで行うことではなかったということです。今は新型コロナ対策が最優先で、都構想にかける費用があれば、コロナ禍で苦しむ人や企業に回すべきだったのです。大阪維新の会は、新型コロナでの吉村人気にあやかろうと、またコロナ禍で反対者が多い高齢者が住民投票に行かないことに賭けて強硬に住民投票に踏み切りました。これまで反対の立場をとっていた公明党も、根っからの節操のなさから吉村人気に便乗し、都構想の住民投票が実現しました。大阪市民のどれだけが都構想のメリット・デメリットを認識しているかは不明ですが、ほとんどの人が分かっていないのではないかと思います。一旦都構想が住民投票で可決されると、失敗だったからといって元に戻すことはできません。慎重な判断が求められるのです。コロナ禍のどさくさに紛れて行うことではなかったのです。賛成派も反対派もしっかりとした議論を尽くして将来に禍根を残さないようにしたうえで住民投票を実施すべきだったのです。と言ってもすでに住民投票が始まっています。先ほども言いましたが、今はそのタイミングではありません。私自身もどちらがいいかは判断突きかねています。しかし、「今はそのタイミングではない。新型コロナ対策こそ最優先」なので、先送りするために反対票を投じました。

さて、今日は鹿島茂著「ラ・フォンテーヌの寓話に学ぶ処世訓 『悪知恵』のすすめ」(PHP文庫)を紹介します。

イソップ物語」については誰でも一度は読んだ話があると思いますが、ラ・フォンテーヌの寓話については読んだことがない人がほとんどです。私も、名前は聞いたことがありましたが、読んだことはありません。ラ・フォンテーヌは、17世紀のフランスの詩人で、イソップ物語を基にした寓話で知られています。帯に「毒と妙薬に満ちた大人のための座右の寓話」とあるように、イソップ物語と同じ題材を使いつつも辛らつです。ここにフランス人の考え方が読み取れます。

本書の著者の鹿島茂氏は共立女子大学明治大学の教授を歴任したフランス文学の研究者です。本書は、ラ・フォンテーヌの寓話を題材に、そこから読み取れる名言を紹介してくれています。もともとは2013年に刊行されましたが、文庫化されるにあたり、加筆・修正され、安倍政権などの政治に対する皮肉的な一言が添えられていて面白くなっています。

その中からいくつか紹介します。「イソップ寓話集」も「ラ・フォンテーヌの寓話」もいずれも岩波文庫の引用です。

  • キツネとブドウ・・・イソップでは「腹をすかせた狐君、支柱から垂れ下がる葡萄の房を見て、取ってやろうと思ったが、うまく届かない。立ち去り際に独り言、『まだ熟れていない』 このように人間の場合でも力不足で出来ないのに、時のせいにする人がいるものだ」とあります。ラ・フォンテーヌでは「ガスコーニュ生まれのキツネが、ノルマンディー生まれだという人もいるが、お腹が空いて、ほとんど死にそうになっていた時、ぶどう棚の上に、明らかに熟しきって、紫色の皮に覆われた葡萄の実を見た。ぬかりない奴は、喜んでそれで食事をしたかったのだが、手が届かなかったので、「あれはまだ青すぎる。下郎の食うものだ」と言った。ぐちをこぼすよりもましなことをいったではないか。」となります。手が届かない富や地位を羨むのは愚の骨頂で、そんなものは「下郎の食うものだ」と馬鹿にしておけばいい。実際、フランス人の庶民は、こうした負け惜しみ思考法で豊かでなくても十分幸せでいられる。負け惜しみこそ精神の健康法だというわけです
  • クマと園芸の好きな人・・・これはラ・フォンテーヌのオリジナル。山奥に一人住み友が欲しいと思っていたクマと、話ができる友が欲しいと思っていた園芸家が意気投合して一緒に生活を始める。クマは時々狩りに出かけるが、主な仕事は園芸家が昼寝しているときに顔に付きまとうハエを追い払ってやること。ある日のこと、クマがハエを追い払ってもハエはすぐに舞い戻ってくる。クマは次第にいらだった。「『きっとつかまえてやるぞ』と彼は言う。『そら、こんなふうにだ』言うやいなや実行。忠実なハエ追いは、敷石をひっつかみ力一杯に投げつけて、ハエをつぶすと同時に男の頭をぶちわった。かくて、推論は下手だがすぐれた投手のクマは、男をその場で即死させてしまったものだ」 この寓話から発生したフランスの表現に「クマの敷石」というのがあり、「いらぬおせっかい」という意味だそうです。ラ・フォンテーヌは、この寓話の後に「無知な友ほど危険なものはない。賢明な敵の方がずっとまし」と付け加えています。本書で鹿島氏は「長期政権となった安倍内閣では、首相側近という『クマ』達が新型コロナ禍の解決策と称して、さかんに『クマの敷石』を投げつけているようだ。まさに『無知な友ほど危険なものはない』」と言っています。
  • カラスとキツネ・・・肉(ラ・フォンテーヌではチーズ)を咥えたカラスが木の枝に止まっているのを見たキツネが、それをせしめてやろうとキツネがカラスにお世辞を言う。気を良くしたカラスは大きく口を開き「カァー」と鳴き、肉を落としてしまう。まんまと騙されたカラスにキツネが言う。イソップでは「烏さん、あんたに心があったなら、万鳥の王になるのに何の不足もなかっただろうに」となっていますが、ラ・フォンテーヌでは「ご親切なお殿さま、覚えていることですな。へつらい者はみんな、いい気になる奴のおかげで暮らしていることを。この教訓は確かにチーズ一つの値打ちは十分」となっています。騙し騙されは人生にと言って絶対に回避できないから、損害の軽い段階でペテンに引っかかり悔しい思いをしておく方がいいということです。鹿島氏は、「安倍政権の打ち出した、アベノマスクや『うちで踊ろう』動画などの新型コロナ対策ほど、この寓話の正しさを証明するものはないだろう。補佐官というおべんちゃら集団を相手にしてドーダしていた孤独なおぼっちゃま首相の心のメカニズムを覗いて見れれば、この寓話の正しさがよく分かるにちがいない」と言っています。
  • オオカミと小ヒツジ・・・これもラ・フォンテーヌのオリジナル。澄んだ小川の辺で、一匹の小ヒツジが喉の渇きをいやしていた。そこに腹が減ったオオカミがやってきて声をかけた。「おい、子羊。なんで貴様は俺の飲み物を濁らせたりなんかするんだ。図々しい奴だ」などと因縁をつける。これに理屈で対抗しても無駄な努力だ。どちらが正しい正しくないよりも以前に力関係で正誤は決まっている。「『いいか、お前たちヒツジは、俺が嫌いだそうじゃないか。ヒツジも羊飼いも牧羊犬も、みんな俺のことが大嫌いなんだ。とにかく俺はそう聞いている。だから、俺としては、ここで自らの屈辱を晴らし、仇を取らなきゃいけないと、こういうことになるわけだ』そう言うが早いか、オオカミは小ヒツジにがぶりとかみつくと、そのまま森の奥へ連れて行って、むしゃむしゃと食べてしまったとさ。」 もっとも強い者の理屈は常に正しいというわけだ。鹿島氏は、「もっとも強い者の理屈は正しい、としても、そのもっとも強い者も、新型コロナウイルスにはかなわないというのが、今年証明されたこと。中国もアメリカも、金で解決できなかったのだから」と言っています。アメリカ大統領選も3日後に迫りどうなるのでしょうか。
  • ツバメと小鳥たち・・・ラ・フォンテーヌのオリジナル。多くの国を旅して経験豊かなツバメが、一人の農夫が畑に麻の種を蒔いているのを見て、小鳥たちに警告した。成長した麻からは小鳥たちを一網打尽にする網や罠が作られるから、今すぐ種を食べてしまえと。だが、小鳥たちは野原には麻の種を食べなくても他に餌はいっぱいあるので、ツバメの警告を相手にしなかった。かくしてツバメの警告は現実となり、小鳥たちは麻から作られた網や罠で一網打尽にされてしまった。ラ・ファンテーヌの教訓は「私たちは本能に耳を傾けるにしても、それは自分たちの本能だけ。わが身の不幸は、それが本当にやってきた時でなければ信じないものである」というものだ。わが身の不幸は降りかからなければわからないということだ。鹿島氏は、「7年続いた『アベノミクス』で財政赤字は、天文学的数字に膨れ上がったが、もう誰も財政再建などと言わなくなった。増税したらこちらも地獄を見ることは明らかだからだ。・・・破綻はいつかは来る。『小鳥たち』は決して信じないだろうが。」と言っています。
  • ライオンとブヨ・・・いつもうるさくつきまとうブヨにライオンが怒りを爆発させて「立ち去れ。虫けら、大地の滓め」と怒鳴った。すると、この屈辱にブヨが逆上して「百獣の王と言うが、俺様は怖くないぞ。牛はお前より大きいが、俺の想いのままだ」と宣戦を布告した。ブヨは大空高く舞い上がったかと思うと急降下してライオンの首を攻撃し、さらに背中を、鼻を、鼻孔の中まで攻撃した。ライオンは怒りと痛みで爪と歯をむき出して暴れまくるが、いたずらに自分を傷つけるだけで、疲れ果て降参する羽目になった。ブヨは、誇らしげに勝利のラッパを吹いて自分の栄光を方々に知らせに行こうとするが、その途中で、目に見えなかったクモの糸に引っかかり、哀れ、待ち伏せしていたクモに貪り食われてしまったとさ。ラ・フォンテーヌの教訓は2つ。「一つは最も恐るべき敵は、時として最も矮小な敵であるということ。もう一つは、大きな危険を免れることが出来た者がつまらぬことで身を亡ぼすということがあるということ」 鹿島氏は「『最も恐ろしい敵は、時として最も矮小な敵である』という教訓はコロナ禍で証明されてしまった。(もう一つについて言えば)コロナ禍という最大の脅威を克服した後にこそ、最大の危機が待っているのかもしれない」と言っています。
  • ワシとイノシシとネコ・・・森の中に一本の樫の木があり3つの空洞があって、一番上にワシが、真ん中に猫が、一番下にイノシシが住んでいた。猫が邪心を起こして独り占めしようとワシとイノシシに不埒な考えを吹き込んだ。ワシには「イノシシの奴が土を掘り返してこの樫の木を倒すつもり。そうなれば子供たちもみんな死んでしまうのよ」と吹き込み、イノシシには「ワシがあなたの赤ちゃんを狙っているわ」と吹き込みます。ワシとイノシシは留守の間に子供が攫われるかもしれないと思い餌を取りに出かけることが出来なくなり、飢えて子供たちは死に、悲しみのあまり親たちも死んで、猫はその両方の家を手に入れ、悠々と暮らし、子孫も繁栄したとさ。ラ・フォンテーヌの教訓は世の中には偽りの噂を流す悪意ある人間がいるということだ。鹿島氏は、「コロナ禍においても、日本中で、いや世界中で、ネコのような人物は確実にいて、寓話と同じような悪意ある噂をSNSで拡散しているのだろう。『簡単に信ずるな!』」と言っています。
  • 羊飼いになってしまったオオカミ・・・あまりにも近所をうろつきすぎたために顔を覚えられたオオカミ、羊飼いのギヨが服を脱いで番犬と一緒に若草の上で居眠りをしているのを見て、その外套を盗むことにした。オオカミは帽子もかぶり、羊飼いに化けることに成功し、羊たちは群れごとオオカミの棲み処に連れて行かれそうになった。しかし、調子に乗ったオオカミは、声まで真似しようとしてすべてをぶち壊してしまった。オオカミの吠え声を聞いたヒツジが驚いたばかりか羊飼いのギヨも番犬も目を覚ましたからだ。ラ・フォンテーヌの教訓は「オオカミはオオカミらしく振る舞うのが一番。それが最も間違いのないやり方だ」ということ。鹿島氏は「菅直人菅直人らしく振舞え。小泉純一郎のまねをしても無駄なこと。菅直人らしく振舞うとはどういうことか。実はこれが最大の問題なのである。というのも菅直人にもそれが分かっていないからだ。『ぼくって何?』一国の首相にそんな言葉を吐いてほしくない』と言います(これが書かれたのが東日本大震災直後)。そして、「国難というのは一国の指導者の人間的力量を測る秤のようなものであるらしい。コロナ禍で、安倍首相のそれが恐ろしいまでに露呈されてしまった」と言っています。

これら以外にもいろいろな寓話が紹介され、そこからの教訓が語られています。寝転びながら読んでよいような本なので面白く読めると思います。

鹿島氏は、ラ・フォンテーヌの寓話がイソップほど日本で親しまれていないのは、性善説を信じる日本人と性悪説を信じるフランス人の思考法が対照的だからではないかといいます。性善説を信じたいところですが、昨今の情勢を見ていると、人間の本質が善だと思えなくなります。性悪説的な考えに立つことも必要なような気がします。その意味でフランス人的な考えは参考になりそうです。

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休日の本棚 組織戦略の考え方

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で778人、そのうち東京204人、神奈川60人、埼玉61人、千葉34人、愛知51人、大阪137人、沖縄28人、北海道69人などとなっています。東京は2日連続で200人超え、大阪は4日連続で100人超えと感染は収まる気配を見せず、北海道では結婚式の披露宴や二次会でクラスターが発生するなどして1日の感染者としては過去最多となっています。官公庁の発表によれば、GoToトラベルを利用した者のうち、76人から新型コロナの感染者が出たとのことで、GoToトラベルだけでなく、GoTo イート、GoTo商店街、GoToイベントなどで徹底した感染防止対策が求められます。

GoToトラベルの延長や、海外からの入国制限を緩和して経済を動かすことも大事かもしれませんが、経済が回復するためには新型コロナの感染防止対策がとられてある程度新型コロナが抑え込まれることが必要です。経済の身に目が向いていれば感染防止対策がおろそかになり感染拡大を加速させ、結局は経済を止めざるを得なくなってかえって経済にマイナスになります。経済と感染防止対策のバランスが大事です。

さて、今日は、沼上幹著「組織戦略の考え方ー企業経営の健全性のために」(ちくま新書を紹介します。

著者の沼上氏は一橋大学大学院商学研究科教授で、選考は経営戦略論、経営組織論などです。

日本においてバブル期には「日本型経営は優れている」という基本路線が継承されていましたが、バブルが崩壊すると「日本企業は駄目だ。アメリカに学べ」と言われるようになりました。果たして、本当に日本型経営は間違っているのでしょうか?

著者は「日本の組織が劣化していくことがよくあるのを知っているけれど、日本の組織の本質的な部分を維持しながら、どうにかこうにかダメにならずに経営を続けていくにはどうしたらいいのか」という問題意識に基づいて議論を展開していきます。本書は、流行りのカタカナ組織論とは一線を画し、日本的経営を前提に極めて常識的な論理を積み上げて組織設計の考え方を示してくれていますので、分かりやすく理解しやすくなっています。

組織設計にしろ経営戦略にしろ経営というものは「こうすればうまくいく」というような明確な答えはありません。ビジネスパーソンなり経営者なりがその場その場で自分の頭で考えて答えを導き出すしかありません。「経営学は何の役にも立たない。実践的でなく実務に役立たない」と言われますが、概して社会科学とはそういうものです。政治学や経済学が現実の政治や経済に直接役立っているように見えないのと同じです。

社会科学系の学問は、現実問題を直接解決するものではなく(刻々と変化し続ける問題状況の中でできるはずもありません)、どのようにすれば問題となっている背景を把握し分析しどのように解決していくのかという基本的指針を提示してくれ、思考の道筋や手掛かりを与えてくれるのです。

経営学も答えを与えてくれる学問ではなく、経営学で培われた理論的思考が、現実の経営の場面で現れる問題や課題を解決するための指針となってくれるのです。

本書は、「第1部 組織の基本」「第2部 組織の疲労」「第3部 組織の腐り方」の3部構成になり、全10章で構成されています。

本書の構成の順序とは異なりますが、「第3部 組織の腐り方」から取り上げます。

「会社の寿命は30年」と言われることもありますが、明確にこのような法則があるわけではありません。しかし、「組織は何も手を加えなければ時とともに腐る」のは間違いなさそうです。

本書では、組織の腐敗傾向をもたらす2つのメカニズムとして「ルールの複雑怪奇化」「成熟事業部の暇」が挙げられます。

「ルールの複雑怪奇化」とは、組織において、新陳代謝が起こりにくく古いものはそのまま残り、古いものの上に新しいものが付け加えられ、その結果古い組織ほど複雑怪奇なルールを持ってしまうということです。「成熟事業部の暇」というのは、真名が仕事に慣れていて仕事遂行能力が余りその余った時間で内向きの無用な仕事が次々と生み出されてしまうことです。この2つが徐々に組織の健全性を蝕み、「知らないうちに宦官のような社内政治家を増やし、売上や利益を外の世界から獲得してくる武闘派の社員を窒息させてしまう」というのです。

そして、この「ルールの複雑怪奇化」「成熟事業部の暇」という状況、つまり腐敗は伝播するのです。今、大丈夫と思っていても、とりわけ顧客企業や他の部署が腐敗してくると、知らないうちに自分の部署も腐敗するのです。

それでは、腐敗にいち早く気づくにはどうすればよいのでしょうか?またその対応策を進めるにはどうすればよいのでしょうか?

  • 組織腐敗のチェックポイント1―社内手続きと事業分析のバランス・・・手続き論や筋論に時間がとられすぎるようになると問題。時間配分の健全性が重要。新規事業開発にしろ新規商品開発・既存商品の改良にしろ、事業内容の検討が重要なのに社内の反対や批判の対処に時間を取られるようなら論外。
  • 組織腐敗のチェックポイント2―スタッフたちのコトバ遊び・・・皆がどれだけ日まで、その暇がどれだけ内向きの仕事に向けられているかをチェックする。社員の雑談の質をチェックする。

では、腐敗から回復するにはどのようにすればよいのでしょうか。

  • 存の秩序をできる限り徹底的にきれいに破壊すること・・・「重要な伝統」「社員に与える不安感が心配」という声にも一理あるが、組織がある程度腐敗してしまうと回復軌道に乗る唯一のチャンスはトップダウンによる乱暴な現状は回しかない。
  • この既存秩序の破壊に伴って、社員の注目が一時的に社内に向いてしまうのを、新規事業や既存事業の利益水準の回復に向ける・・・①既存秩序を破壊し、新しい組織デザインへ移行するシナリオをについて、コア人材たちに明確な論理で説明すること ➁できるだけ簡潔に組織デザインの話を切り上げ、社員の意識を外向きに無理矢理にでも方向付ける。
  • 暇と忙しさのメリハリをつける・・・暇な人と忙しい人のメリハリをつける=組織が腐りかけているときには優秀な人とそうでない人を明確に分けるのを恐れてはならない。仕事のできない人を暇にしてはならない。仕事ができる人が暇になると新事業開発や更なる省力化など利益に直結する新しい仕事を考案できるようになるとともに、意識が外向けに方向づけられる。こうした循環が重要。

次に、「第2部 組織の基本」からいくつか取り上げます。ここでは組織設計の基本が語られています。

まず、組織設計の基本は官僚制にあるというのです。確かに、「官僚制」という言葉を聞くと悪いイメージしか湧いてきませんが、官僚制が組織設計の基本中の基本です。カタカナの組織論にかぶれてそれを振りかざすのは危険です。日本の場合、官僚制組織が基本にあるのですから、それを基本としつつ問題点をあぶりだし改革していけばよいのです。著者は、長期的に望ましい組織設計と短期的に望ましい組織設計とは相相反すると言っています。短期的には垂直分業や職能別分業が効率性を発揮できるが、長期的には経営者として大きな視野を持つ人材の育成に失敗することが多いのです。官僚制を基本としつつ、不確実性が高まるにつれて、官僚制に新たな工夫が付加され汐式が複雑化し、、また人材育成のことを考えて垂直・水平両方向の分業を緩やかに若干追加的に修正していくのがよいと言っています。

日本の企業の組織を見ると、メチャクチャというか奇妙な組織構造になっていることがよくあります。しかし、奇妙な、メチャクチャな組織に問題があっても、組織変革をやりさえすれば問題が解決するというわけにはいきません。組織デザインは万能薬ではないのです。問題を処理するのは組織ではなく人なのです。

次に「第2部 組織の疲労」を取り上げます。

著者は、「企業組織というのは機械ではない。機会なら時折油を刺して、モータ-を回して居ればかなり長い間動き続ける。ところがヒトが作りだしている組織は、そうはいかない。組織としてまとまりを保ち続けるように誰かが努力しないと直ぐにガタが来る」のです。「企業組織には常に水の中の足掻きが必要」なのです。企業組織の邪魔になる無用で有害な厄介者と社内野党を押さえ込んでおかないと組織は正常に動かないのです。特に中間層にインセンティブを与えるようにしないと彼らが「厄介者」になってしまいます。エリート層だけでなく、中間層についても動機付けが重要であり、中間層の活性化を付録深き議論しておかないと、精神的にも肉体的にも多くの組織が病んでしまいかねないというのです。

権力=パワーの源泉が何であり、それをどのように配分して組織設計すればよいかも重要です。組織にとって重要な問題が発生している部署に情報・知識をベースとした権力があり、そこに正当性パワーと賞罰パワーを一致させておけば、組織設計上は最適解になるはずだと言われます。これほど単純であれば問題はないはずです。しかし権力というのは人の欲が背後にありどろどろとしたもので、権力の源泉はさまざまです。それほど単純化できるものではありません。トラの権力とトラの威を借るキツネの権力という比喩も面白いです。スキャンダルの裏側で権力者が生まれるという指摘もなるほどと思わせてくれます。

奇妙は権力者を生まないためには、①トップ・マネジメントの数を減らすこと トップ・マネジメントの評価に、内向きの評価基準は使わないことです。

全体的に抽象的な話になりましたが、興味のある人は読んでもらえば具体的な事例を使ったり図解されていたりと分かりやすく理解しやすい内容です。カタカナの組織論に違和感を感じていた人にはお勧めです。

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コロナ禍で右肩上がりする企業の特長

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で809人、そのうち東京221人、神奈川71人、千葉43人、埼玉39人、愛知87人、大阪125人、岡山31人、沖縄32人、北海道53人などとなっています。全国的にじわじわと増加傾向が見られます。

全国で感染者が10万人を超えましたが、東京が3万人超で約3分の1、大阪1万2000人、神奈川8000人、愛知6000人と続きます。沖縄も3000人を超え、北海道や宮城、岡山で1日当たりの感染者の最多を更新するなど、地方での感染再拡大の兆しが見えます。全国で、クラスターはこれまで1761か所に及び、最多は「飲食店」、次いで「企業や官公庁などの事業所」、「福祉施設」、「医療機関」と続きます。死亡率は第1波のときに比べ、若者の感染者が増加したことから、大幅に低下しています。しかし、無症状や軽症の若者を介して家庭内感染が広がり、感染経路不明者も増加していることから、今後の爆発的な市中感染の恐れも払しょくできません。

一人一人が感染防止に向けて適切な行動をとるとともに、特に地方において医療をひっ迫させないために医療機関の整備がなされることが重要です。

今日は、Voiceの「『コロナ倒産』を横目に右肩上がりを続ける企業の”ある特長”」という記事を取り上げます。

新型コロナウイルス関連の倒産(負債1000万円以上)が600件を超えました。インバウンド需要が戻る兆しが見えず、GoTo トラベル、GoToイートが始まり徐々に活気を取り戻しつつあるものの、まだまだ観光・宿泊業や飲食業、アパレル・小売業など厳しい状況が続いています。そのような中逆風を味方につけて右肩上がりを続ける企業もあります。この記事は、そうした企業と低迷を続ける企業の違いを解説しています。

この記事では、コロナ後の予測について次のように言っています。

  1. 2021年「ゾンビ企業」が一掃される・・・新型コロナ対策によって本来なら倒産しているはずの企業が生き延びそれが「ゾンビ企業」として存在します。それが2021年に一掃されるというわけです。アトキンソン信者の菅首相は、中小企業の再編をもくろみ中小企業・零細企業を淘汰しようとしています。そうした菅首相にとっては「ゾンビ企業」の存在は忌み嫌うところでしょう。しかし「ゾンビ企業」も雇用の一翼を担っています。政府が強制的に淘汰すべき存在ではありません。自然淘汰されるならいた仕方がありませんが、それはコロナ禍という非常事態下の今ではありません。
  2. 後継者問題に悩む企業がいち早く倒産・・・少子高齢化に伴う後継者不足は、コロナ禍とは別の大きな問題ですが、コロナが更なる影響を与えました。政府は事業承継税制の制度を創設し、親族だけでなく従業員等の第三者にまで優遇税制の対象を広げました。しかし、事業承継が進まないのが現状です。後継者がいない企業の中には優れた技術を有している町工場や中小企業が存在します。それらがコロナ禍で後継者がいないというだけで廃業に追い込まれるのは避けなければなりません。
  3. 頭を使わない会社は淘汰される・・・規模の大小にかかわらず、頭を使わない会社は消えていきます。これは当然のことですが、好況期には、頭を使わない企業でも何とか生き残れていました。しかし、コロナ禍では「どうすれば儲かるか」「新たな需要は何処にあるか」を真剣に考えないと生き残れません。

この記事では、「今こそ『顧客第一』に立ち戻るべき」と言っています。当たり前のことなのですが、好況期には忘れ去られていたように思います。「顧客第一」に考えなくても商品やサービスが売れ、利益を上げられていたのは昔の話です。

「コロナが収束すれば業績が戻る」などと安易に考えているわけにはいきません。密を避け新しい生活様式を行うことが定着するようになるとこれまでとは全く異なります。テレワークやリモートワーク、デジタル化やDXと、働き方も変わってきます。そうした社会環境の変化の中で「どうすれば儲かるのか」「どこに新たな需要があるのか」を真剣に考えて、行動に移した企業が勝機を得るのです。頭を使わず過去に安住している企業は淘汰されます。

「取り敢えず、いつも通りの仕事を忠実にこなしていけば会社は潰れず何とかなる」という時代は去りました。こうした消極的な姿勢では駄目で、言い換えれば、「積極的に新規参入し工夫を怠る企業や何も考えない企業を淘汰していく絶好の機会でもある」ということです。

コロナ禍においても、常連客が根付いている企業や店では極端な顧客の減少はなく、通りがかりや飛び込み客を中心にビジネスをしているような企業や店は顧客が減りその痛手をダイレクトに受けています。

こうしたことから、この記事では、通行量や客の年齢層、職層を綿密に分析し、価格も計算して新規顧客の開拓を想定したビジネスモデルや経営計画では駄目で、「顧客を育てる」という中長期的なビジネスモデル、「顧客第一主義」に立ち戻ることが重要だと言っています。

「コロナが…」と言って何もせず漫然と過ごしている企業・人は駄目で、新しい生活様式に順応できる企業や人が勝ち組になるというのです。

「ピンチをチャンスに」と安易に言うつもりはありませんが、「顧客第一主義」という基本に立ち戻り、常に「何をすればよいのか」「どうすれば顧客のニーズにこたえることが出来るか」を考えてそれを商品やサービスに生かすことが出来れば、このコロナ禍という苦境を生き残り勝ち続けることが出来そうです。

中小・零細企業、デジタル化で効率が爆上がりした事例

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で731人、そのうち東京171人、神奈川64人、埼玉44人、千葉40人、愛知51人、大阪117人、兵庫29人、沖縄29人、北海道52人などとなっています。

10月に入り、新型コロナ感染者は、「横ばいから微増傾向に」変化し、首都圏、関西圏だけでなく、北海道や東北、沖縄などでクラスター発生で感染者が増加し、感染者増から病床のひっ迫具合を示す指標が悪化している地域もあるようで、医療体制の準備が必要です。GoToトラベル、GoToイートで人の移動が活発化し、歓楽街や飲食、職場などでクラスターが発生したことが影響しています。

一人一人が政府のキャンペーンに踊らされることなく、密を避け新しい生活様式を守りながら行動することが大事です。政府も、経済を動かすことだけに目を向けるのではなく、しっかりとした感染防止対策をとるとともに、第3波に備えて医療体制や療養体制をしっかりと整えておくことが重要です。

菅首相は、所信表明演説で「重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行うとともに、医療資源を重症者に重点化する」と発言しました。この言葉だけを見ると「もっとも」と思えそうですが、この発言は「無症状者は検査しない」と言っているのに等しいのです。

現在家庭内感染が増加していますが、これは、無症状や軽症者の若者がウイルスを家庭内に持ち込み感染を拡大させていると言ってもいいのです。重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行っても、無症状者を放置していたのでは感染は減少しません。

東洋経済オンライン「日本のコロナ対策がどうも心配な根本理由」の中でも、こうした菅首相の発言や日本のコロナ対策が世界の潮流とは正反対だと批判されています。

例えば、イギリスでは、第1波の時に有症状者に検査を限定したのを反省し、検査対象を拡大しています。イギリスの医学誌「ランセット」では「無症状者の医療従事者をスクリーニングすることは合理的で、第1波で検査対象を有症状者に絞ったイギリスの政策は問題だった」としています。イギリスがモデルとしたのは中国のようです。

10月12日、中国青島市で12人の感染者が確認されると、中国政府は全市民を対象にPCR検査を実施し他に陽性者がいないことを発表しました。この中国の対応についてはCNNニュースが大々的に報じそれなりの評価がなされていますが、日本のメディアではほとんど取り上げられていません。中国の報道ですから感染者ゼロという検査結果については信用できないと思いますが、重要なのは感染者が見つかると全市民を対象としてPCR検査を実施したということです。

IOCのバッハ会長が韓国のテレビインタビューに応じ、東京オリンピックについて、新型コロナ対策として観客を減らす方向を検討していると明らかにしました。来年7月に東京オリンピックパラリンピックが開催されるかは微妙ですが(欧米の感染状況から開催は現実的ではなく、早めに決断した方がいいと思いますが)、世界からは、検査件数の低さから日本の感染者のデータは信用されておらず、新型コロナ蔓延国とみられています。

中国が感染者を抑え込もうと躍起になっているのは、2023年の冬季オリンピックの開催があるからです。

日本が本当に東京オリンピックパラリンピックを開催する気ならば、これまでのやり方を変えて無症状者を含め検査件数を拡大することです。中国を見習うと言いたくはありませんが、検査対象を拡大して新型コロナを抑え込もうという姿勢は評価されてよいように思います。

日本は、こうした中海外渡航を再開しようとしています。空港などの水際で検査体制を強化しても一部の感染者は見落とされ、それが国内に入れば無症状者は検査されないとすれば、日本国内を往来しウイルスをまき散らします。これが海外渡航を再開した時のバッドシナリオです。こうしたバッドシナリオにならないためにも検査件数の拡大を含め適切な対策が取られるべきです。

「今日は」というか「今日も」ですが、デジタル化、DX関係です。幻冬舎ゴールドオンラインの「中小・零細企業…『デジタル化』で効率が爆上がりした事例3選」を取り上げます。

これまでアナログで業務を続けてきた中小・零細企業にとっては、デジタル化・DX導入によって勝機を見込みやすいというのです。確かに、これまでアナログで業務を推進していたところにデジタルやDXを導入すれば効率が上がり生産性が向上するケースもありますが、要はどのような目的で導入するのかといった明確な目的意識の下で導入することが重要です。そうした明確な目的意識がなければ「導入のための導入」「手段の目的化」に終わって費用対効果もマイナスになりそうです。

その意味では、他者の成功事例を見るということは役に立つように思います。

  1. ケース1:膨大な名刺を「手間なく使えるデータ」に変換・整理(情報通信業・・・過去に受け取った名刺は社内で保管していることがほとんどで、出先で参照することも、探すのも一苦労。データ化されていないので、ほかの人が名刺交換した人を紹介し合えるというのも難しい。無料で利用できる名刺アプリ「Eight」を利用して、名刺をスマートフォンで撮影するだけでデータ化できる。名刺データは会社名、氏名、役職等で検索できるため、必要な名刺をすぐに見つけることが出来、PC でもスマホでも参照でき、そこから電話をかけたりメールしたり送信したりすることも可能、他の社員にもコンタクト先を紹介できる。名刺管理はビジネスにおける大きな課題の1つ。データ化が容易で軽い運用が可能な社内の名刺情報を共有できるサービスやアプリを導入すれば、早期に課題を解決できる。
  2. ケース2:デジタルサイネージの導入(製造業)・・・情報共有が課題。これまでは掲示板や壁に貼りだすという方法を取っていたが、ディスプレイに情報を掲示する「デジタルサイネージ」を導入。デジタルサイネージでは、表示する内容を一定時間ごとに変えることが出来、動画を流すことも常に変化する情報をリアルタイムに伝えることも可能。表現力やリアルタイム性を備えたデジタルサイネージデジタルサイネージの導入によって、情報が格段に伝わりやすくなった。各拠点、各フロアにディスプレイが設置されているので、通りがかりに目にする、ふと気になって見るなど、自然な動線の中で情報を確認、共有できるようになった。
  3. ケース3:システム担当者1名。遠隔操作で複数死者の支援を実現(倉庫・運輸関連業)・・・「パソコンやシステムにトラブルがあると仕事も止まる。しかもシステム担当がそれぞれの拠点まで出向いて解決しないといけない」という問題を解決。遠隔操作できるようにすることで「トラブルを解決しに行く」という行動をデジタル化した。遠隔操作の仕組みは、在宅勤務でも活躍する。自宅で在宅勤務している途中にもトラブルは起きるもの、それを遠隔操作でサポートできる。IT化を進めていくと、システム担当の負荷は大きくなる。移動時間や待ち時間を最小に業務をスムーズに行うために遠隔操作は良いアイデアである

ここでは、それほど複雑なデジタル化の導入が行われているわけではありません。デジタル化やDXという言葉が流行し、さまざまな話が出てきていますが、中小・零細企業は、あまり背伸びをせず、小さなことから取り組んでいけばよいと思います。自社の課題をあぶりだし、その課題がデジタル化によって解決できるものかを検討し、自社に合ってデジタル化を推し進めればよいのです。 

DXの重要視点・重要要点

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で648人、そのうち東京158人、神奈川64人、千葉44人、埼玉29人、愛知35人、大阪142人、沖縄23人、北海道27人、宮城45人などとなっています。宮城が1日の感染者としては過去最多となりましたが、何と言っても大阪が140人を超えたのは8月21日ぶりで、この急増がこれからも続くのか心配です。松井市長・吉村知事は、都構想に躍起となり、「心はコロナにあらず」と言ったところで新型コロナ対策がおろそかになったのが原因でしょう。

私は、昨日、期日前投票に行き「反対」の一票を投じてきました。

今日は、ビジネスITの「『DX』で企業は本当にトランスフォーメーションしているのか?見落としている重要要点」という記事を取り上げます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にするようになり、デジタルトランスフォーメーションに本気で取り組もうとする企業も増えています。菅首相が掲げるデジタル庁の創設がさらに拍車をかけそうです。

デジタルトランスフォーメーションというのは、「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念で、ビジネス用語としては多義的に用いられていますが、おおむね「企業がデータやデジタル技術・テクノロジーを用いて組織やビジネスを変革し続け、価値創造を抜本的に変えること」です。

と言ってもなかなか理解しにくいものですが、この記事ではわかりやすく次の3点で定義づけされています。

  1. 新しい製品・サービスにより企業が競争優位を確立すること
  2. そのためにデジタルやデータを利活用すること
  3. このためには企業はすべてで変革を伴うこと

このようにDXは「ITを活用してビジネスモデルや組織を変革すること」を意味しますが、その目的は「企業の競争優位を確立すること」です。

IT化という言葉もよく使われますが、IT化は業務効率を高めることを目的とするもので、DXはそれを手段として組織の変革を進めるものです。

以前から何度か言っていますが、IT化にしろDXにしろ、それ自体が目的ではなく、IT化については「業務効率の向上」、DXについては「組織やビジネスの変革」「競争優位の確立」という目的達成の手段にすぎません。

DXの導入を誇らしげに語る企業もありますが、導入が目的ではなく、その先にある「組織やビジネスの変革」「競争優位の確立」が達成できたか否かが重要なのです。

この記事では、DXの現状と課題、解決策について解説されています。

「世界から周回遅れ」と批判される日本企業ですが、実際にDXに取り組んでいる企業が60%、計画中の企業を含めると70%にも上っているようです。しかし、こうした企業でもどこまで本当にDXの在り方を理解し、対応しているかと言うと疑問です。

この記事はDXを推進するためのヒントを与えてくれています。

DXの計画・取り組みについて3つの点から説明されています。

  1. 既存業務の効率化というDX・・・既存業務の効率化、特にシステムへの置き換えは、業務内容そのものを大きく変化させないので手を付けやすく、効果算定も定量化しやすく、失敗も少ないという理由から、取り組みの第1位とされています。
  2. データに着目したDX・・・「DXではデータの活用が不可欠なので、活用する際の下準備やインフラ作り」ですが、単にデータの統合化や一元管理を行っただけでは、ビジネス面での効果につなげるのは難しいのが現実です。データを集めて何がしたいのか見えてこないと言ったケースも多いのです。
  3. 現行システムの作り直しもDXという流れ・・・「現行システムの再構築」(モダナイゼーション)ですが、必ずしも「新しい業務機能の提供を主たる目的としていない」のです。しかし、これもDXとされています。

先ほども言いましたが、DXは目的ではなく手段です。この記事では、「今は『手段の目的化』の時期、本当の取り組みはこれから」といっています。この記事では、DXの目的と手段を次のように意味付けしています。これも分かりやすい説明です。

  • 目的:企業が競争優位や行きの頃を図るために、新しいビジネスやサービスを、顧客や市場に提供していくこと
  • 手段:そのためにデジタルとデータを活用し、それを可能にする企業(業務・組織・プロセス・文化など)となること

この記事では、既存業務の効率化、データの統合、基幹システムの刷新の必要性を否定しているわけではなく、技術(デジタル)の活用という視点からの新ビジネス・サービスを考えていくアプローチを否定しているわけではありません。

しかし、この記事は「『目的』なき『手段』の遂行が賢いやり方とは言えない」と言います。

「目的」が何かを明確に認識しそれに向けての「手段」ととらえない限り、「手段の目的化」で終わってしまいます。

経営の関心は、競争優位を確立し、ビジネスを成長させること・市場から退場とならないようにすることで、そのために既存ビジネスを成長させる、それに限界が感じられたら新規事業への進出・展開を目指すことです。そうした目的のための手段がIT化なりデジタル化なりDXなのです。手段と目的をはき違えてはいけません。

 これは政府の政策にも言えることです。デジタル庁の創設にしろ、デジタル化の推進にしろ、それらの言葉が独り歩きしてそれ自体が目的化しています。必要なのは国家や社会についての明確なビジョンです。どのような国家や社会を目指すのかと言ったビジョンを国民に分かりやすい丁寧な言葉で示し、そのための手段として何を為すべきかを明らかにする姿勢が求められます。

 

 

 

リーダーを目指す人の心得

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で410人、そのうち東京102人、神奈川22人、埼玉34人、千葉24人、愛知37人、大阪43人、沖縄29人、北海道50人などとなっています。休日で検査件数が少ない時のデータのはずですが、北海道と愛知がやはり増えています。どちらも一旦は収束に向かい落ち着いていたのに再び感染者数が増加しています。第三波が近づいていないことを願います。

ヨーロッパでは新型コロナの感染が再び拡大し、スペイン、イタリア、フランスでは夜間の外出禁止や飲食店に営業時間短縮要請の措置を取り始めています。WHOによると、24日の世界の新規感染者数は約47万人にのぼり、3日連続で過去最多を更新しています。アメリカでも、23日、新規感染者が過去最多の約8万4000人に達しました。

新型コロナの再拡大は世界的な流れとなっているようなので、日本でも、経済を回すことを優先している現状では再拡大は避けて取れそうにありません。問題はいかにそれを最小限に食い止めるかです。

昨日の菅首相所信表明演説で、新型コロナウイルス対策は第一番目の課題として挙げられましたが、これと言った目新しい具体的な対策はありませんでした。誰か他人(政策ライターか政策秘書官か)が作った原稿の棒読みで心に訴えてくるものもありませんでした。出口の見えない少子化問題やコロナ禍にどのように立ち向かい、ピンチをチャンスに変えで、コロナ後にどのような国家や社会を目指すのかといったビジュンがありません。ただ一つあったとすれば、「グリーン社会の実現」(2050年に温室ガスゼロ)だけです。と言っても世界情勢からすれば一周以上の遅れです。「2050年までに80%削減」と言っていた段階よりは進んでいますが、そのためにどうすればよいのかといった具体的な話はありません。

蓮舫氏も「各省庁からそれぞれ2,3行ずつのアピール原稿を集め短冊状に束ねた永田町で言う『短冊原稿』そのもの」「何をなされたいのか、国家観や国民のためにどんな働きを目指すのかが伝わっておない」と苦言を呈しています。

以前コロナ禍のリーダーシップについて書きましたが、その際、リーダーに求められるものとして、①緊急に行動する。②透明性をもってメッセージを伝える。③過ちには生産的に対応する。④常にアップデートする。という4点を挙げました。

所信表明演説との関係で言えば、②透明性を持ってメッセージを伝えることが出来ていたかです。透明性のあるメッセージとは、現実を正確な説明によって伝えることですが、それは、何を予測しているのか、それが人々にとって何を意味するのかについて、可能な限り説明することです。人々が理解できる形でメッセージを伝えなければなりません。希望のないメッセージは、人々を自暴自棄にさせるので、メッセージのどこかに人々が今後エネルギーを注ぐ対象となる希望が持てるような将来展望を含むべきなのです。これまで日本の首相や政治家は嘘にウソを重ねるような発言を繰り返し、透明性のある発言とは言えません。

菅首相は国民に寄り添う内閣との触れ込みですが、日本学術会議問題、中曽根元首相の葬儀に約1億円もの税金投入問題、中曽根元総理の葬儀に際し弔意を表す半旗を挙げることを国立大学に強制問題、などについて明確な説明もなされず、ご自身の「政治家の覚悟」という本の改訂版で都合の悪い部分(公文書に関する部分)を削除するという態度など、正直さとは裏腹で、透明性のあるメッセージとは到底考えられません。

都合の悪いところは蓋をするという姿勢は、これまでの首相と何ら変わっていません。安倍首相を承継するというのはそういうところも含めて承継するということだったのでしょうか?

他の3点についても、首を傾げたくなります。

菅首相は、コリン・パウエル著「リーダーを目指す人の心得」(飛鳥新社が愛読書のようです。コリン・パウエルは米国の統合参謀本部長、国務大臣などを歴任し、オバマ大統領誕生前には黒人初の大統領になるとまで言われた人物です。

愛読書というなら、今一度、しっかりと読み込んで、パウエル氏の言葉を噛みしめてもらいたいものです。

パルエルのルール(自戒13か条)

  1. 何事も思うほどに悪くない。翌朝には状況が改善されているはずだ。
  2. まず怒れ。そのうえで怒りを乗り越えろ。
  3. 自分の人格と意見を混同してはいけない。さもないと意見が却下されたとき、自分持ちに落ちてしまう。
  4. やればできる。
  5. 選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
  6. 優れた決断を問題で曇らせてはならない。
  7. 他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
  8. 小さなことをチェックすべし。
  9. 功績は分け合う。
  10. 冷静であれ。親切であれ。
  11. ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
  12. 恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
  13. 楽観的でありつづければ力が倍増する。

この本は、目標達成、対人術、組織づくり、危機対応など、リーダーだけではなく組織で働くあらゆる人の役に立つ本です。菅首相の愛読書だけにとどめておくのはもったいない本です。

今日は休日ではないのに、最後には本の紹介になってしまいました。 

   

 

週休4日制 企業の狙いは人件費の削減?

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で495人、そのうち東京124人、神奈川61人、千葉36人、大阪70人、北海道41人、沖縄31人などとなっています。休日ということもあって検査件数が少ないことから全国的な感染者数は少なくなっておるようですが、その中で上記1都1道1府3県だけで327人で全体の約65%を占めています。この地域での感染拡大を抑え込むことが新型コロナの最善の感染防止対策になるように思うのですが、GoToトラベル、GoToイート、GoTo商店街とこの週末も各地の観光地は紅葉を楽しむ人であふれ混んでいます。このようなことを続けていると、近い将来第3波が襲ってくるような予感がします。いつも言う通りですが、政府が経済に大きくかじ取りしている中。一人一人が気を引き締めて政府の思惑に安易に乗っからず慎重な対応をすべきです。政府を当てにできない以上、自分や家族の身は自分が守りしかありません。

さて、今日は、週刊ポストの記事から取り上げます。先日来、週休3,4日制の導入について何度か書きましたが、この記事は「週休4日制の導入 企業側の狙いは明らかに人件費の削減か」として、週休4日制のメリットとデメリットを挙げています。

ネット上では週休4日制について、「介護や子育てに活用できる」「時間を柔軟に使うことが出来る」などの肯定的な意見がある反面、「給料が減るなら意味がない」「リストラの一種?」などといった否定的な意見が出ています。

「子供が大学を卒業するのは平均的に55歳くらいで、こうした家族を抱えて給与が6割になったら家計はどうなるのか。副業をしないと生活が苦しくなるが、稼げる副業は容易に見つからない」

「週休4日制の導入は明らかに人件費の削減。支店の閉鎖やAI導入で人員が余るので、人員を削減する代わりに労働時間を減らして人件費を削減しようとしている」

このようにも言われますが、こうした点は否定できません。

この記事では、「働く側にもメリットがないわけではない」と言います。働き方の柔軟性が進む中で、生活コストを下げる工夫もできるというのです。つまり、テレワークや時差出勤、出勤日数の減少で、都心ではなく郊外の広くて安い家賃のマンションに引っ越したり近郊の実家に戻ったり生活環境を改善しながら出費を抑えることもできるというわけです。しかし、子供がいる家庭では、郊外に引っ越すといっても簡単に子供を転校させるわけにもいきません。ここに言うように生活コストを下げるのは難しいことです。

また、「実家から通勤できれば離職することもなく介護と仕事の両立が可能になる」「定年後のセカンドキャリアに必要な資格やスキルを身につけるために時間を作れる」「郊外で農業を始めることもできる」など新しいことを始める準備期間にすることが出来るというのです。

確かに、新しいことを始めるための準備期間と考えて、時間を有効活用できるというメリットはあり得ますが、それが出来るのは生活に余裕がある人です。就業時間の短縮で給与が減り預貯金もない人はその減った賃金を埋め合わせるために必死になって副業を探し、やりたくもないアルバイト(副業)をやらざるを得ないという人が出てきます。

週休3,4日制の導入」や「副業容認」が一種のトレンドになっていますが、これもデジタル化やDXと同じで、言葉だけが独り歩きすると、目的と手段とをはき違えることになります。

何のために(目的)、こういった制度を導入するのか、を明確にしたうえで導入しないと意味がありません。目的が明確でないために企業側の論理だけをとらえて「人件費削減」が目的と言われるのです。働き方改革の一つとして、どのような社会を目指すのか、どのような雇用を目指すのかといった企業の理念、もっと言えば政府の雇用政策・労働政策の目的が明確にされなければなりません。そして、そうした理念や目的を目指して社会環境・労働環境を整備し、労働者にとって不利益のない生活しやすい社会環境や労働環境が作られていなければならないと思います。 

休日の本棚 私立時計ヶ丘高校タイムトラベル部

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で731人、そのうち東京203人、神奈川62人、埼玉41人、千葉41人、愛知42人、大阪96人、兵庫48人、沖縄40人、北海道60人などとなっています。首都圏、大阪、北海道、愛知、沖縄で増加傾向にあります。東京では法政大学、早稲田大学の合宿所でクラスターが発生し、北海道ではススキノの接待を伴う飲食店でクラスターが発生しています。第3波が足元に近づいてきているのではないかと懸念します。GoToトラベル、GoToイートなどによって気が緩み予防意識が低下してきているように思います。経済優先で経済を回すことのみに意識が向いていると感染防止がおろそかになり再び経済を止めなければならない事態になりかねません。感染予防と経済のバランスを考えた両立が必要です。

昨日海外から成田空港に到着した男女13人が新型コロナに感染していることが判明しました。先日来書いていますが、政府は経済優先で、ビジネスでの入国者の制限を緩和する方向に動いています。緩和される対象は、原則ビジネス目的での滞在者ですが、安易に緩和するとさらに多くの感染者が見つかりその中には空港の検疫を逃れて入国してくる者も出てきそうです。相手国の感染状況を見ながら段階的に行うべきですが、入国に当たっては慎重かつ厳格な検査を行って入国させてもらいたいものです。

昨日は、経営に関する本を紹介しました。今日は、私が興味を持っている物理学の本を紹介します。と言っても、難しい本ではありません。小谷太郎著「私立時計ヶ丘高校タイムトラベル部」(中経出版)という本です。

著者の小谷太郎氏は、東京大学理学部物理学科卒業後、理化学研究所NASAゴダード宇宙飛行センター、東工大などを経て現在青山学院大や神奈川大などで講義、専門は宇宙物理学、観測装置開発です。

その小谷氏が高校生でもわかるように、相対性理論量子力学宇宙論などの最先端の物理学を、図解を交えストーリー形式で説明してくれています。

時計ヶ丘高校に入学した理数系が苦手な男子高生・今野世界が、美人の先輩・玄野星に誘われて”時間旅行”の物理学を学ぶ”タイムトラベル部”に入部することになります。彼らは、夜間観測、文化祭、夏合宿、数々の学校でのイベントを通して、タイムトラベル理論を見つけ出し、タイムマシーンを作ることが出来るのでしょうか?

ストーリーの内容はネタバレになるのでやめて、いくつかの物理学の理論、特に奇妙な信じられないような理論(と言ってもこれが真実で実証されています)を紹介します。

  • 特殊相対性理論・・・アインシュタインが1905年に「運動する物体の電気力学」という論文の中で発表した理論。運動する人が時間や時刻や長さを測ると、静止している人が測るのと違う値になるのです。時間は何処でも誰にも同じように流れているわけではないのです。この理論の前提には光速不変の原理(光の速さは毎秒30万キロメートル、これは実験室の装置でも高速で飛ぶ飛行機やロケットの中で測定しても変わらない)から導かれています。
  • ウラシマ効果・・・特殊相対性理論から導かれます。猛烈な速度で進行するロケットを考えます。ロケットのスピードが光速の99%になると、ロケット内の時間の進み方が地球の7分の1になります。光速に近いロケットに乗って宇宙旅行を10年続けて地球に戻ってくると地球では70年の時が過ぎているのです。まさに浦島太郎のような経験をすることになるのでウラシマ効果と呼ばれています。
  • 一般相対性理論・・・アインシュタインが1915年に発表した理論です。特殊相対性理論は等速運動が前提となっていましたが、重力を加え、加速度運動にも適用できるように一般化したものです。一般相対性理論では時間だけでなく空間も歪むのです。質量のあると、その近くでは空間が歪み時間の進みがゆっくりになるのです。一班相対性理論は、重力の理論であり、宇宙の理論であり、タイムトラベルの理論でもあります。ブラックホールは強力な重力を持つ天体で、近づきすぎると、光でさえ脱出できなくなります。巨大な質量を持つブラックホールの近くで過ごすと時間の流れが緩やかになり、未来へのタイムトラベルが理論的には可能ですが、潮汐力によって身体がバラバラにされてしまいます。光速を超えるスピードで走ると過去へのタイムトラベルが可能だと理論的には言われています。しかし、光より速く進むものは存在しないので、このようなタイムマシンを作ることは不可能でしょう。
  • ゲーデル宇宙・・・1949年、クルト・ゲーデルが「アインシュタイン重力場の方程式の新しいタイプの宇宙解の例」という論文を発表しました。ゲーデル宇宙は球の表面のような宇宙で回転し、ある距離旅すると元に戻ってくるのです。ロケットもぐるっと輪を描いて出発地点に戻ります。光速にきわめて近いロケットでゲーデル宇宙を旅すると、光を追い抜き、出発時刻に戻ってくるのです。出発時刻より過去に戻ることも可能で、出発前の自分に出会えるというのです。
  • シュレーディンガーの猫・・・ハイゼンベルグ量子の不確定性理論を発表しました。これによれば、量子の位置が特定されればされるほどその速度と方向はあいまいになり、その逆も然りというのです。量子は粒であるとともに波であり人間に観測されるまではぼんやりとしていて観測されて初めて明確になるというのです。シュレーディンガーが次のような思考実験をしました。猫を1匹、箱に閉じ込めます。そこにはガイガーカウンターとごく微量の放射線物質が入っています。この放射線物質の量はごく微量で、1時間後に原子が一個崩壊している確率が50%、崩壊するとアルファ粒子のような極微の粒子を放出し、それにガイガーカウンターが反応して、ハンマーを動かし青酸ガスの入った瓶を割り、ガスが放出されれば確実に猫は死にます。1時間後猫はどうなっているのでしょうか。猫も原子でできているので量子力学の理論が妥当するはずです。そうすると、量子の不確定性理論により、原子が崩壊していなければ猫は生きていて、崩壊していれば猫は死んでいるのですが、不確定性理論で原子が両方の状態にある(量子のもつれ)ので、猫も生きている猫の状態と死んだ猫の状態が同時に存在し、半分生きていて半分死んでいる猫が箱の中にいて、観察者が箱を開けて初めて生きているか死んでいるか確定するのです。
  • ワームホール・・・ワームホール型タイムマシンはカリフォルニア工科大学のキップ・S・ソーン教授が提唱しています。ワームホールというのはドラえもんのどこでもドアのようなものです。第1に量子重力理論によってミクロなワームホールを作り、第2にそれを人や物が通れるまで拡大し、第3に特殊な物質を詰め込んで安定化させるという工程で作ろうとしています。量子重力理論によると、この時空は揺らいでいて、ミクロのワームホールが生まれては消えているのです。それらを利用できれば、ワームホール型タイムマシンは可能かもしれません。
  • 祖父殺しのパラドクス・・・タイムトラベルと言えば、バックトゥザフューチャーですが、第1作では、過去にタイムトラベルした未来の息子マーティに若き母ロレインが恋をします、これでは父と母が結婚せずマーティが生まれなかったことになるのでマーティが父と母をひっつけようと奮闘する話になっています。私が過去にタイムトラベルし、父方の祖父が祖母に会う前に祖父を殺すと父が生まれないことになるので、私も生まれないことになり、そうすると祖父を殺すことはできなくなります。すると祖父と祖母が結婚し父が生まれ父と母が結婚して私が生まれ、私は祖父を殺すために過去に行き・・・この繰り返しです。これが祖父殺しのパラドクスと言われるものです。この解決に対してはいろいろな説が唱えられています。過去に行っても歴史を変える行動をとることはできないというものもありますが、有力なのはヒュー・エヴェレットが50年前に提唱した「多世界解釈」に基づくものです。宇宙は絶えず枝分かれし、平衡宇宙・パラレルワールドが存在するというものです。これによれば、祖父が殺された世界と殺されていない世界が枝分かれして並行して存在しているということになります。
  • 時間順序保護仮説・・・ホーキング博士が唱えました。もしタイムトラベルが可能なら、「未来から現在にタイムトラベルしに来ている人がいるはずだ。それがいないということは、時間には順序があってタイムトラベルできない」というのですが、タイムトラベルできないという物理法則はなく、後日ホーキング博士もこの説を撤回しました。ただタイムマシンが出来る以前にさかのぼってはタイムトラベルできないと考えられています。

物理学はある種のロマンがあって面白いと思っているのですが、どうでしょうか?

私が生きている間には無理でしょうが、科学も刻々と進歩しています。いつの時代かは分かりませんが、タイムトラベルできる未来が来るでしょう。

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