中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

休日の本棚 病気をしない暮らし

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大阪場所はどうなる?

おはようございます。

世界保健機構(WHO)は、世界全体での新型コロナウィルスのリスク評価についてこれまでの「高い」から「非常に高い」に引き上げました。そして、中国以外で感染者が出ている国について、①各国で最高レベルの緊急対応策の即時発動②不定型肺炎の症状を示すすべての患者に対する検査③複数セクターにまたがる感染拡大防止策の策定などを提言しました。日本政府の対応の遅さと同様WHOの危機意識の低さが世界的な拡大を招いたと言っても過言ではないでしょう。

さて、今日は仲野徹先生の「病気をしない暮らし」(晶文社)を取り上げます。仲野先生の本は、以前「怖いもの知らずの病理学講義」と「エピジェネティクス」をとりあげましたが、今回の本もおっちゃんおばちゃん向けに「読んで笑って医者いらず!」と大阪弁を交えて面白く書かれています。といっても内容は高度です。病気ってなに?から始まり、生きるということ、ダイエット法、遺伝の話、癌にならない暮らし、風邪をひかない暮らしなど、病気にならない極意が満載です。今日は、新型コロナウィルスとの関連で、第6章「病原体との闘い」の中の「生物と無生物の間ウィルスの話」を説明します。この本は2018年末に出版されていて、当然のことながら新型コロナウィルスの話はありません 以前も書きましたがウィルスが生物かどうかということは意見が分かれています。生物には自己増殖・代謝・外界との境界(細胞膜)の三拍子そろっていないとダメという人はウィルスは生物ではないとしています。仲野先生は「まあ、どっちでもええっちゅうたらええこと」と言われています。

抗ウィルス薬の歴史は大よそ50年と短くたかだか40年前に効果のある抗ウィルス薬が使われ始め、猛烈な勢いで進歩しました。しかし、抗ウィルス薬は細菌や真菌に対する抗菌剤(抗生物質)と違います。抗菌剤は、広い範囲、すなわちに多種類の細菌や真菌にも効果を発揮します。しかし、抗ウィルス薬は特異性が非常に高く、ヘルペスウィルスならヘルペスウィルスだけ、インフルエンザウィルスならインフルエンザウィルスだけと、ある薬は特定のウィルスにしか効果がないのです。ここに新型コロナウィルスの対処法が見つからない理由の一つがあります。新型コロナウィルスに効く治療薬の開発が進められていますが時間がかかります。新型コロナウィルスに効果が期待できそうな薬として、エボラ出血熱に使われた抗ウィルス剤「レムデシビル」があり、抗エイズウィルス(HIV)薬とインフルエンザ治療薬「タミフル」の併用で有望な結果が出たという報告もあります。臨床応用が可能な抗エイズ薬を見つけたのはアメリカで研究されていた日本人の満屋裕明先生だそうです。その抗エイズ薬AZT(アジドチミジン)はHIV(ヒト免疫不全ウィルス)の増殖を抑制しエイズの発症を防ぐのです。またインフルエンザウィルスも細胞内で増えて細胞の外へ放出され、次の細胞へと感染していくのですが、細胞の外に飛び出すときにノイラミニダーゼという酵素が必要で、タミフルはこの酵素に働きます。タミフルが作用するとインフルエンザウィルスは細胞内に閉じ込められた状態になり、宿主の細胞が死んでしまうとウィルスの増殖も止まり感染が抑えられるという仕組みだそうです。新型コロナウィルスにエボラ出血熱の抗ウィルス剤やHIV薬とタミフルの併用が効果があるのは、これらの薬剤が新型コロナウィルスの増殖を抑え細胞内に閉じ込めて他の細胞への感染拡大を一定程度阻害するからでしょう。新型コロナウィルスに直接効果を発揮する薬剤の開発が待たれるところです。

仲野先生は「人類は、色々な病原体との軍拡競争を繰り広げてきたわけですが、この100年ほどは、衛生状態の向上や、医学の進歩による数多くの薬剤の開発で、人類が優位に立っているかのように見えます。しかし、進化というのは恐ろしいものです。軍拡競争を行っているのは人間の側だけではなくて、病原性微生物の側も同じです。ですから、薬剤耐性菌がどんどん増え、再び、結核などの細菌感染が人類の脅威になる日がくるのではないかと考える人もいます。未来の予測は難しいのですが、現在のことだけでなく、近未来のことも見据えて考えて薬剤を使わないとだめなことだけは間違いありません」とされています。これからも薬剤耐性菌や進化した新型のウィルスが出現し人類との軍拡競争を繰り広げることになるでしょう。果たして勝つのは人類か、それとも病原性微生物の側か予断の許さないように思います。

次は風邪についてです。風邪とは「身体を寒気にさらしたり濡れたままに放置したりした時に起こる呼吸器系の炎症疾患の総称。アデノウィルス・コロナウィルス・ライノウィルスなどが鼻腔・咽頭喉頭などに感染することによる」(広辞苑)です。インフルエンザを引き起こすのはインフルエンザウィルスですが、風邪ウィルスという一つのウィルスがあるのではなく200種類以上のウィルスが風邪を引き起こすと考えられています。統計的には、歳を取るほど風邪に罹りにくくなるようですが、それは長い年月色んなウィルスの風邪に罹り免疫ができるからです。

本書には、風邪をひかない極意が書かれています。

南極では風邪をひかないそうです。寒くても風邪のウィルスにさらされることがないので風邪をひかないということです。そこから風邪をひかない極意がでてくるのですが、ウィルスにさらされなければよいということです。ウィルスの侵入部位は上気道、つまり口や喉ですから、そこへウィルスがやってくるのを阻止すればいいのです。それは飛沫と接触でむしろメインは接触です。飛沫もあり得ますが、よほどの濃厚接触の場合だけなのでマスクはそれほど役に立たないようです。問題は接触なので重要なのは手洗いということです。外から帰ったら、あるいは屋内でも風邪の人が触ったような場所を触れたのちにしっかり手洗いしないといけません。普通の石鹸でも十分ですが、指や手のひらといった部位をそれぞれ15~20秒は洗わないとウィルスは落ちないようです。これは厄介です。また、手で顔を触らないように注意することも大切ということです。人は無意識のうちに顔を触っているのでこれも厄介です。家族に風邪ひきが出た時には家の中で手を触れがちなところを清潔にするだけでリスクを下げることができます。

また、うがいをするのも有効です。口や喉に入ったウィルスを肺に入れないことです。

これら風邪をひかない極意はそのまま、新型コロナウィルスに罹らない極意となりそうです。

しかし、マスクだけでなくアルコール消毒液も売り切れでありません。また、トイレットペーパーやティッシュも昨日のデマで、今日は売り切れていたり、高値で売られていました。困ったものです。

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最悪のシナリオ

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おはようございます。

今日も新型コロナウィルスです。昨日、安倍総理は、新型コロナウィルス拡大を防ぐために全国の小中学校を臨時休校にするように要請しました。新型コロナウィルスの対応が後手に回っているという批判をかわすためと内閣支持率低下に対し指導力をアピールしたいがためでしょう。子育てと仕事を両立する保護者や学校の臨時休業に伴い欠勤者の増加が見込まれる企業の負担増は避けられません。また、パートに出ている母親が子供のためにパートを休まなければならなくなり家計にも影響を与えます。学校を休校にして子供らが大人しく家で待機しているかもわかりません。かえって市中に出歩き感染リスクが高まるかもしれません。これらについて何の対策も考えず、感染者が出ていない地域を含め全国一律に休校とするのはいかがなものかと思います。何の根拠も示されず、過剰反応としか言いようがありません。また、保育園・学童保育は除外されていますが、子供らへの感染症の拡大を防ぐという理由からすれば整合性に欠けます。幼稚園や部活の取り扱いに関する説明もありません。安倍総理の思いつきとしか言いようがありません。これによって国民生活の混乱も避けられません。また、安倍総理の過剰反応が日本経済にも大きな影響を与えかねません。諸外国から日本は危険な国とみられ、日本人の入国を拒否する国もさらに出てくるでしょう。海外投資家が日本株を投げ売りし、株価は続落しています。ますます海外からの旅行者も減少します。困ったものです。

さて、前置きが長くなりましたが、今日は、東洋経済オンラインの「コロナショックの先に待つ4つの最悪のシナリオ」を取り上げます。

これまで新型肺炎に対して安倍政権の危機管理の甘さが際立っています。日本への渡航自粛を求める国も増え、東京五輪の開催にも暗雲が立ちこめ、日本経済を根底から覆しかねないリスクが顕在化しています。新型コロナウィルスによる経済への影響は深刻で、リーマンショック級とも東日本大震災級とも言われる景気後退リスクに日本政府は太刀打ちできるのか、今まさに正念場です。

この記事は、新型コロナウィルスの先にある最悪のシナリオを4つあげています。

  1. シナリオ1=東京五輪中止によるバブル崩壊・・東京五輪の経済効果は32兆円(直接的効果は5兆円)とも言われていますが、中止となればそれを失うことになります。また1990年のバブルを超えて土地価格は高騰しており東京五輪が中止となればバブルは崩壊し日本経済に大きな打撃を与えます。
  2. シナリオ2=消費は半減、東日本大震災級の落ち込み・・すでに6割以上の企業が影響が出ていると回答してます。それにもかかわらず、2月20日、政府は相変わらず「景気は緩やかに回復」と発表していますが、この危機感のなさ、どのような頭の構造になっているのか疑いたくなります。新型肺炎の影響による政府対応で収入面が落ち込むことは明らかで、消費税増税・さらにポイント還元終了と相まって消費は大幅に落ち込むことが予想されます。
  3. シナリオ3=1ドル125円超、悪性インフレに入る・・本来危機的な状況になれば買われるはずの安全資産といわれる円が売られ、あっという間に120円の円安になりました。日本経済が許容できる円安は1ドル125円と言われています。1ドル125円を超える事態になれば、日銀にはそれに対応できる余力はありません。こうなれば輸入物価が急激に上昇します。株価下落、円安、債券価格下落と三重安で日本経済は沈没します。
  4. シナリオ4=日本全土の封鎖・・新型肺炎が爆発的に拡大して日本全土が武漢化してしまうと、最悪の事態になります。そうなれば、サプライチェーンの停滞で海外からの物流は途絶え、食糧をはじめ物資が不足します。さらに企業活動が停滞し、サービス業が壊滅的なダメージを受けます。海外からのヒト、モノ、カネも遮断され、輸出入もストップしてしまいます。株価の大暴落により株式市場に膨大な資金を投資している年金資金などの公的資金が打撃を受け、年金制度が破たんすることにもなりかねません。

ここに挙げられている最悪のシナリオは極端かも知れませんが、シナリオ4だけはどのようなことをしても避けねばなりません。政府にとって正念場です。国会を挙げて取り組まねばなりません。野党も与党の上げ足をとっている場合ではありません。全体として一丸となってこの危機を乗り切るべく最善を尽くしてもらいたいものです。

また、企業にとっても日本のこの未曽有の危機を乗り越えるべく、自社にとって何ができるかを真剣に考える時期です。まずは自社の存続をどのようにして守るかを第一義に考えてください。そのために自社の従業員に感染者を出さないようにする方策を考えてください。一社一社が感染者を出さないように取り組めば近いうちに収束するはずです。そのうえでどのような社会貢献ができるかを考えて下さい。

 

新型肺炎に対する中小企業の対策

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おはようございます。

今日も新型コロナウィルスの影響を取り上げます。労働組合「ジャパンユニオン」は新型コロナウィルスに関する労働問題美特別相談窓口を開設しました。「職場でマスクをつけさせてもらえない」「無給での自宅待機を命じられた」などの相談が相次いだようです。また、今朝のワイドショーでは「新型肺炎にかかったらクビだ」などと上司から言われたというのもありました。

マスク不足に便乗してネットで高額販売する、取り合いをする、盗むなど、「困ったときはお互いさまで、分け与える」という日本人の和の心はどこへ行ったのでしょうか。新型肺炎に便乗して労働者に不利益を課そうとする企業もあるようで情けない限りです。そのような企業にならないようにだけはしてください。

まず、「職場でマスクをつけさせない」ということについて「お客さんに失礼だ」などというのが会社側の言い分のようですが、この緊急事態ではお客さんの理解も得られるはずですし、逆にマスクをしていない方が失礼ではないでしょうか。企業には従業員の健康に配慮する「安全配慮義務」が労働基準法で規定されています。マスク着用は労働者に対する安全配慮義務の一環として積極的に行われるべきもので、これをしないということは安全配慮義務違反になる恐れがあります。

次に「無給での自宅待機」についてです。

  1. 感染が確認され感染症法によって強制入院となった場合、会社の責によるべき場合ではないので休業手当支給の必要性はありません。一定の要件を満たせば健康保険などから傷病手当が支給されます。ただ、従業員が業務に起因して感染したり濃厚接触したりした場合には、企業の責によるべき場合として休業手当を支給する必要があります。
  2. 感染が疑われる場合で発熱などで自主的に休む場合、通常の病欠扱いと同じで、就業規則の病気休暇制度を活用することになるでしょう。労使間の話し合いによって失効した有給休暇を活用するというのも一つの案です。会社も従業員の生活を考え労使間でしっかり協議してより良い方法を決めるべきでしょう。
  3. 感染拡大防止の観点から企業の判断で休ませる場合は、原則として休業手当を支給する必要があります。また、事業の閉鎖、規模の縮小などで自宅待機にする場合でも会社都合なので原則休業手当の支給は必要です。このような場合、従業員との合意ができれば労働条件を変更して(例えば、労働日数・労働時間を変更)休業手当を支給しなくてよくなる可能性があります。
  4. 中国など海外出張から帰国してそのまま自宅待機とする場合には、海外出張の延長として取り扱い、プライベートの旅行の場合には有給休暇を使えるようにして給料の大幅減となり生活に支障が出ないようにする必要があります。

次に、「感染すればクビ」についてですが、解雇の正当理由にならないことは当然です。このような発言自体がパワーハラスメントパワハラ)となって損害賠償の対象になります。不用意な発言は控えましょう。

事業の縮小で整理解雇という事態が生ずるかもしれません。その場合、「整理解雇の4要素」を判断する必要があります。「整理解雇の4要素」とは①人員削減の必要性②解雇回避努力③人員選定の合理性④手続きの相当性の4つです。これらを総合考慮して決断すべきこととなります。人員整理を行うとすれば、整理された従業員ばかりでなく残った従業員にも過大な負担を強いることになります。新型肺炎はいつかは終息します。それまでできるだけ体力を温存して耐えるようにしてください。安易な整理解雇はすべきではないと思います。最悪の場合でも自宅待機にとどめるべきでしょう。

政府は、新型肺炎対策としてテレワークの推進を呼びかけていますが、これにも限界があります。事業内容に応じてテレワークに向く業務と社内で行うべき業務があります。出社が必要な業務と自宅でもできる業務とを分け優先順位を決めて取り組む必要があるでしょう。自宅でできる業務を優先できるならそれから取り組みましょう。どうしても出社しなければならない場合には時差出勤をするようにしてください。

3月末に大量の新型肺炎倒産?という記事もありますが、そのような事態だけは避けねばなりません。中小企業の資金繰り支援のために、政府や各都道府県、金融機関は中小企業に対する経営相談窓口を設け緊急融資などを行っています。これらを利用して危機を乗り切るのも一つの方法ですが、情報提供が十分ではなく、阪神淡路大震災東日本大震災の時のように融資を必要としているところに貸し渋りで融資が回らないという事態だけは避けてもらいたいものです。

 

  

 

新型肺炎 世界経済に打撃

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おはようございます。

一昨日、昨日とニューヨークダウが大幅に下落、日本の株式市場も下落し、世界同時株安の様相を呈するようになりました。これまで新型肺炎は中国、日本などアジアの問題ととらえていたところ、イタリアを中心にヨーロッパ・中東にも広がりさらにアメリカ国内での感染者が出るに至りようやく危機感を募らせるようになったこと、新型肺炎に対する危惧感・新型肺炎が欧米経済に悪影響を与えるという警戒感が原因です。今後、世界的な新型肺炎拡大を受けて、各国は景気下支えのために確固たる対応策をとることが迫られます。日本においても今まさに正念場です。「この1~2週間が感染が拡大に進むか、収束に向かうかの瀬戸際」ということで政府は基本方針を決定しましたが、感染者が全国的に広がっており、政府の対応は後手後手に回っているに感じます。人混みには行かない、マスク・手洗いの励行など自分でできることを行い、自分の身は自分で守るしかないように思います。

新型肺炎が日本経済に与える影響は深刻です。中国からの団体客のキャンセルが相次ぎ、愛知県の老舗温泉旅館「冨士見荘」が廃業に追い込まれ破産手続きに入ることになったようです。観光客の激減は中国人だけでなく、フランスその他の国からの旅行客が減少・キャンセルが相次いでいるようで、観光業に大きな打撃を与えています。日本人の旅行客も減っています。東海道新幹線も外国人の減少と日本人も外出を控えたことなどから利用者数が減少しています。また、百貨店その他小売業の売上高も大きく下落しています。飲食店も外食を控えるようになってキャンセルが増加しており、年度末が近づき歓送迎会の時期だけに今後の新型肺炎の影響によっては更なる悪影響が出ないとも限らず心配です。電通本社の従業員に新型コロナウィルスの感染者が出て、電通本社は約5000人の本社社員に原則として在宅のテレワークを命じました。このような事態は今後ますます広がるように思います。どの企業においても、万一、自社の従業員に感染者が出た場合、企業としてどのように対応していくのかあらかじめ決めておく必要があります。その対応の仕方によって感染者を拡げてしまい世間から批判の目が向けられると企業の存続にも影響します。きっちりとした対応策を練っていきましょう。

以前にも書いたと思いますが、コンティンジェンシー・プラン(不測事象対応計画)です。contingencyという語は「偶然性」「偶発事件」というaccidentにつながる意味があります。経済環境のみならず経済外の環境を含めた予想外の不測事態に対応するための計画で、企業は常に予期できないような事態の発生に注意を怠ってはならないという発想に基づいています。不測事象には、地震等の災害、石油等資源・食料の輸入ストップ、資材購入価格の高騰、為替市場の変動、政変・テロなど様々なものが挙げられますが、今回の新型コロナウィルスの拡大も不測事象に入るでしょう。漠然として起こりうる問題ごとに、複数の計画をあらかじめ立てておき、それが生起した際に、それに対応した計画に切り替えることによって、迅速な対応を果たし企業の損害の最小化を図ることが可能になります。不測事象対応計画の一種として、中小企業庁「中小企業のBCP策定運用指針」(2006年)において、BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)が取り上げられています。これは、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法手段などを取り決めておく計画」のことです。

われわれは、今回の新型コロナウィルス(COVID-19)の前に2002‐3年に、SARS重症急性呼吸器症候群)を経験しました。しかし、今回その経験が生かされているように思えません。確かにSARSの時には中国に対する依存度も今よりは低く今回よりは影響は少なかったのですが、それでもSARSは世界経済に400億ドル(4兆3600億円)の損失を与えました(今回のCOVID-19はその3~4倍といわれていますが)。SARSの時の経験を活かし不測事象対応計画あるいはBCP を策定していた企業はどれだけあるでしょうか。今度こそ、今回の新型肺炎の経験を活かし不測事象対応計画・BCPを策定し、次なる不測事象に対応する準備をしましょう。

また、先日も書きましたが、時差出勤、テレワークなどの働き方改革・治療と仕事の両立支援などで助成金が出る場合があります。今取り組むのによい時期ではないかと思います。

国際オリンピック委員会の委員から、新型コロナウィルス拡大で東京五輪の開催可否期限が5月末との見解が示されました。万一、東京五輪が中止という事態になれば日本経済に与える影響は計り知れません。これからは、その「万一」を想定した対応策を検討する必要があるかもしれません。自社の企業存続が危ぶまれないように、自社の損失を最小限に食い止めるには何をなすべきか、今から真剣に検討し計画を立てるべきでしょう。脅しではありません。そうした危機が目前に迫っているように思います。

       

 

約120年ぶり民法改正

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おはようございます。

2020年4月から改正民法が施行されます。そこで、今日は、民法改正が企業に与える影響についてお話しします。

1894年に現行民法が制定されて以来126年が経過しました。その間個々の改正はありましたが、全般的な改正は行われず、実情に合わなくなった面もあり、2006年から法務省が全面的な改正作業に入りようやく2020年4月施行となったのです。

民法というのは、私人間の法律関係を規制する法律で私法の1つです。総則、物件、担保物件、債権、親族・相続の5編から成り立っていますが、今回の改正では、主に民法全体に影響する総則偏と私人間の取引関係を規定する債権編が改正されました。

民法改正のポイントについて説明します。

  1. まずは「保証」です。個人保証の要件が厳しくなり、原則として、保証人本人が公証役場に行き、「保証意思宣明公正証書」という書面で保証意思を明確にする必要があります。さらに、事業に関して保証を依頼する場合には、保証人に対して財産や収支内容を開示しなければならず、債務者が資産内容などを開示せず又開示した内容が虚偽の場合には、保証人が保証契約を取り消すことができるようになります。
  2. 次が「消滅時効」です。まず消滅時効期間の統一です。これまで取引に応じて時効期間が異なっていましたが、この短期消滅時効を廃止して、権利を行使することができることを知った日から5年、権利行使できるときから10年になりました。また、時効の完成猶予、後進の制度が新設されました。さらに、当事者間の文書による合意によって時効の完成を1年以内で遅らせることができるようになりました。なお、施行日以前に発生した債権などでは改正前の民法が適用されます。
  3. 次に「定型約款」です。電気・ガスなどの供給、宿泊、保険、運送、通信など定型的なサービスを提供する特定の者(事業者)が不特定多数の利用者との取引において契約の内容とするために準備した条項の総体を「定型約款」といいます。定型約款が有効とされるための要件、事業者による定型約款の開示義務、取引の相手に不利益となる条項の制限などのルールが定められました。中小企業が顧客に提供するサービスにも定型約款を利用できますが、新たなルールの下で有効な約款を作らなければ、合意の効力が否定されることにもなりかねません。
  4. 次に、「法定金利」が変わります。現行民法では年5%の法定金利が定められていますが、市中金利に比べて高率なので一律法定金利を3%に引き下げ、3年ごとに見直すこととしています。法定金利の変更により企業の債権管理や債務者の債務不履行への対応にも影響が出てくるものと思われます。
  5. 次に、「請負」のルールが変わります。請負人の担保責任の規定が変更されますし、仕事を完成することができなかった場合の請負人の報酬請求権の規定が定められました。また、注文者が破産手続開始決定を受けた場合の請負人の解除権に関するルールも変更されました。請負契約を締結している企業では請負契約の内容が改正民法に抵触しないか確認する必要があります。
  6. 次に「売主の義務」が変わります。中古車販売などの特定物売買の場合、現行民法では瑕疵担保責任が規定され、買主は売主に対し修理や代わりの物を請求できず、契約解除と損害賠償しか認められていません。しかしこれでは取引の実情や当事者の意思に合致していないことから、改正民法では「瑕疵担保責任」という制度を廃止し「契約不適合責任」という制度を導入し、従前の解除権・損害賠償に加え修理、代金減額請求なども規定されました。「瑕疵担保責任」という文言を変えるなど売買契約書を見直す必要があります。
  7. 次に、「売買契約の解除」が変わります。これにより、①契約上の義務に違反した人に責任がない場合でも解除が可能となり②義務に違反したり怠ったりしてもそれが軽微な場合には解除ができないことになりました。

以上のほかにも多くの改正点があります。民法改正が中小企業経営に与える影響は大きいものがあると思われます。改正直前になって慌てるのではなく、今から契約書や約款に問題がないかチェックしておいてください。

民法改正(債権法)については、法務省のホームページ   www.moj.go.jp/content/001254363.pdf

を参照してください。

 

   

休日の本棚 世界標準の経営理論を読む

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おはようございます。

今日は経営理論・経営学の本を取り上げます。入山章栄著「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)と同著「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(英治出版)を取り上げます。著者の入山氏は、現在早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授です。「世界標準の経営理論」は昨年末に出版され、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」は入山氏がニューヨーク州立大学バッファロー校のアシスタント・プロフェッサーをされていた時(2012年)に書かれたものです。

まず、「世界標準の経営理論」です。世界の経営学者の英知の結集というべき、「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」として生き残ってきた世界標準の経営理論が約30あります。これら世界標準の経営理論を可能な限り網羅・体系的に、わかりやすく説明してくれているのが本書です。著者が言われるとおり、ビジネスパーソンに読んでもらいたい本ですし、経営者をはじめビジネスパーソンがこれらの経営理論を思考の軸とすることがビジネスの上で有力な武器となると思います。

経営理論とは、入山氏によれば「経営・ビジネスのhow,when,whyに応えること」を目指すものです。howとは因果関係のことであり、whenはその理論の適用範囲のことです。そして何よりも重要なのがwhyで「なぜそうなのか」が説明されなければ理論ではありません。

著者は、「なぜビジネスパーソンに、今こそ経営理論が必要か」について、「説得性」「汎用性」「不変性」の3つの理由があると説明されます。

まず第1の「説得性」について、whyの「説明」「納得」がなければ人は動かないからです。現代は「ダイバーシティ」「ガバナンス改革」「SDGs」「イノベーション」など新しいビジネス課題が次々出てきますが、人や企業は「何故それに取り組む必要があるのか」納得できなければ行動に移しません。経営理論はもはや机上の学問ではなく行動に直結する理論なのです。

第2の「汎用性」ですが、「理論を思考の出発点にするか」(理論ドリブン)か「現象を思考の出発点にするか」(現象ドリブン)で、理論ドリブン思考の方が圧倒的に汎用性が高いと説明されます。「理論⇒現象」の思考軸で経営学を学ぶ方が効率的で応用が利くというのです。

第3の「不変性」ですが、経営理論の説明力は時代を超えて不変だと言われます。理論は、組織と人間の行動・意思決定の本質を根本原理から説明し、そこにwhyの思考の軸を与えるものなので、ビジネス現象が時代とともに変わっても「理論ドリブン思考」が身についていれば思考の軸は分からないということです。

経営理論が実務に貢献しうるルートとして、まず第1は、経営理論がフレームワーク化されることです。理論自体は抽象的で実務で使いやすいとは限らないので、理論を使いやすいフレームワークに落とし込むのです。しかし、この方法はポーターのSCP理論以降発展していません。そこで、本書では、経営理論をビジネスパーソンに直接届け、whyに重点を置いてわかりやすく説明し、ビジネスパーソンの思考の軸になるようにしています。

本書は800頁を超える大作で、もちろん最初から順に読んでもいいでしょうが、関心のある所から、また経営理論の辞書のように使っても良いと思います。最新の経営理論が学べ、かつビジネスの思考の軸が得られるはずです。

次に「世界の経営学者はいま何を考えているのか」です。この本は、当時、ニューヨーク州立大学バッファロー校のビジネススクールでアシスタント・プロフェッサーをしていた著者が、世界のビジネススクールの最前線にいる経営学者が取り組んでいる研究内容を知ってもらうことを目的に分かりやすくエッセイ風に書かれたものです。まず、冒頭に日本人が経営学に抱くイメージや実態に3つの勘違いがあるとされています。その1つにアメリカの経営学者はドラッカーを読まないというのがあります。日本では、ドラッカー・ブームで「欧米の経営学の代表と言えばピーター・ドラッカーの考え」と言われるほどでした。「小学生でもわかるドラッカー入門」とか「もしドラ」の名で有名になった「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」その他多数のドラッカー本が大流行になりました。アメリカの経営学者がドラッカーに関心を持っていないというのはこれを読んだときにショックを受けました。しかし考えてみれば、経営学の趨勢からして当然のことです。近時の経営学の流れは、経済学・社会学認知心理学などの理論を取り入れて、「理論⇒統計分析」という演繹的なアプローチが採られるようになっているのです。日本のビジネススクールでみられるような事例分析はあまり流行らないようです。また、ポーターの競争戦略だけでは通用しないと言われています。先ほどのフレームワーク化だけではダメだということがこの本でも書かれています。入山氏の思考の原点がこの本にあるように思います。まず、この「世界の経営学者はいま何を考えているのか」を読んで、「世界標準の経営理論」に取り組んだ方がよいかもしれません。

また、やっぱりドラッカーだという人にお勧めは國貞克則著「現場のドラッカー」(角川新書)です。ドラッカーの教えを実践する方法が伝授されていますが、理論ドリブンではありません。現象ドリブン思考です。ここに書かれている方法が自社に役立つかどうかは分かりません。一つの事例として読んでください。

「理論ドリブン思考」か「現象ドリブン思考」か、正直なところどちらが良いのかはわかりません。それぞれに一長一短があるように思います。両方の思考を身に着け臨機応変に使い分けることができれば、「鬼に金棒」のような気がしますが、これもなかなか困難です。「理論⇒現象」に進み、そのうえで「現象⇒理論」に戻っていくというのが良いように思います。

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休日の本棚 経済の仕組みを読む

 

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おはようございます。

今日は、久しぶりに(?)経済の本を取り上げます。ルディー和子著「経済の不都合な話」(日経プレミアシリーズ)と大竹文雄著「経済学的思考のセンスーお金のない人を助けるには」(中公新書)です。

まずは「経済の不都合な話」ですが、表紙の帯に「社長と経済学者は読まないでください」と書かれています。偽善・タテマエ・机上の空論ばかりで現実を表さない経済学者やビジネス論を排して人間の本性に基づいて「言いづらい真実」を書いたと言われていますが、社長や経済学者、経済に興味ある人に読んでもらいたい本です。

経済学や経営論では、企業は存続すべきもの(ゴーイング・コンサーン)とされ、存続を目的として経営が行われますが、それは欺瞞だというのです。株主は別段特定の会社の存続など望んでいません。「企業の目的は顧客を創造すること」とも言われますが、同じ顧客の維持だけを考えていては生き残ることはできません。顧客を捨てて変身した企業もあるというのです。もともとSNSの草分けだったミクシィはSNSやオンラインオークションを切り捨てゲーム事業へと変身しています。顧客データを持つ企業は結局はそのデータをもとに金融業に走り儲かると本業をないがしろにして(コア事業をおろそかにして)衰退がはじまります。会社存続というのは経営者のエゴではないか、経営者の野心や自尊心、ほこり、名誉のために存続が目的とされるというのです。また「従業員のため」というのもタテマエにすぎないと言われています。本当に、「顧客のため、従業員のため、社会のため」を目的として企業経営を行っている会社がどれだけあるでしょうか。改めて企業は何のために存続するのかを考えてみる必要がありそうです。

また、本書で、著者は「顧客は不実な愛人みたいなものだ」と言い切ります。顧客は、行きつけの店に品物がなければ他の店に行ってそこで買う、値段の安い商品が出ればこれまで使っていた銘柄から乗り変える、などまるで不倫を働く愛人のように点々とするというのです。ここで例として挙げられているのが、マクドナルド、モスバーガーロッテリアハンバーガー・チェーンの価格競争と吉野家松屋すき屋の牛丼チェーンの価格競争です。ユニクロは、低価格だけでなくある程度の品質を有しているにもかかわらず「ユニバレ」と言われて「ユニクロとばれたらダサい、恥ずかしい」というイメージ低下を払拭すべく「ユニクロは低価格をやめます」宣言を出し数度にわたって値上げを行いました。その結果、客足が遠のき売上が減少し、結局はまた値下げしなければならなくなりました。このように最近の企業は、価値と価格に翻弄されています。

また、経済やマーケティングに理論などないとして、物理学になろうとした経済学に警鐘を促しています。今の経済学を理解しようとすると大学の数学科で習う高度な数学が必要となり経済学が社会科学の一つと言えない状況になっています。そしてモデル化され数式で計算される経済学が現実の経済情勢を正確に分析できているか疑問です。

本書において、以前紹介したダニエル・カーネマンの「スロー&ファースト」の内容や行動経済学が分かりやすく説明されています。これだけでも読む価値はあります。

現代人は理性的であることに疲弊して感情的になってきています。人間は「ある程度の理性を持ったサル」なのだという事実を謙虚に受け止め自覚しなければならないと言われています。こうした立場から、人間の本性に基づいて「経済の不都合な話」が進められます。読みやすく面白い本です。

次に、「経済学的思考のセンス」です。本書の目的は、「お金がない人を助けるには、どうしたらいいのですか?」という小学5年生の問いをもとにお金のない人を助ける経済学的な意味を考える、身近にある経済的格差を考えるのです。そのためのキーワードが、インセンティブと因果関係です。インセンティブとは、誘因、意欲、動機付けのことです。人々の努力を促す手段として賃金格差が発生します。つまり努力した人の賃金は高く、努力しなかった人の賃金は低いということです。賃金格差をつけすぎると、運・不運による成果の差まで努力の差と間違われてしまうリスクが高まってしまいます。そうなると運・不運のせいだと考える人は努力をしなくなります。また逆に賃金格差をなくしてしまうと、この場合も努力しない人が増えてしまいます。所得再分配が難しいのは、このリスクとインセンティブトレードオフ(二律背反)があるからです。社会における様々な現象を、インセンティブを重視した意思決定メカニズムから考えなおすことが経済学的思考法で、そうした経済的センスを身に着けることは日常生活の場面でも役立つはずです。

まず、本書では、「女性はなぜ、背の高い男性を好むのか?」「美男美女は本当に得か?」「いい男は結婚しているのか?」について経済学的に検討しています。

かつて女性は結婚相手に「三高」を求めました。そのうち高学歴は高収入と密接な関係を持っていますが、高身長と高収入との関係はどうか、これを調査した研究者・大学教授がいます。計量経済学的分析から、身長が1インチ高いとイギリス人男性で時間当たり賃金が2.2%高くなり、アメリカ人の白人男性では1.8%高くなるというデータがあります。また、日本でも大阪大学大学院で同様の調査を行い、学歴・勤務年齢・企業規模が同じでも1センチ身長が高いと0.8%給与が高いという結果が出ています。女性は、こうしたことを本能的にわかったうえで三高男性を選んでいるのではないかという説もあります。次に「美男美女は得か」ですが、これにも研究データがあって現実に美男美女の方が就職でも給与でも優遇されているようです(そういうことから就活前に美容整形する人がいるようです)。容貌の差による所得格差を解消する方法として、ハーバード大学のバロー教授は「美男美女税」「不器量補助金」を提唱します(冗談でしょうが)。また、「いい男は結婚しているのか?」では、いい男が結婚しているかは別として、「まともな男は結婚している」「結婚している男は経済力がある」というデータがあります。これについて一卵性双生児の兄弟を比較した面白いデータがあります。一卵性双生児全体でみると結婚している者の方が結婚していない者よりも19%給与は高く、一組の兄弟でみるとたまたま早く結婚した方がそうでない者よりも26%も給料が高いというのです。外見上も遺伝子レベルでも能力が同じ二人を比較していることからすれば「給与が高く経済力があるから結婚した」のではなく「結婚によって仕事ができるようになり給与も上がった」(労働意欲仮説=結婚し家計を担うために責任感が生じ労働意欲が高まり生産性が高くなった)とみることもできるのです。

本書には、ほかに、プロゴルファーは賞金が高くなるとやる気が出る、とか、若者が年金を未納するのは将来受給できなくなる可能性があることに対する若者の逆襲であるなど、面白い内容が書かれています。経済学的センスを身に着けるのによい本だと思います。

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休日の本棚 ハーバードを読む

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おはようございます。

ハーバード式とかスタンフォード式とかアメリカの大学名を冠した本が流行っています。私もついつい書店で手に取ってみたり買ったりしてしまいます。日本人は未だに海外の大学へのあこがれがあるようです。東大式を冠する本より良く売れるようです。

今日は、ポール・ハマーネス&マーガレット・ムーア&ジョン・ハンク著「ハーバードメディカルスクール式人生を変える集中力」(文響社)、タン・ベン・シャハ‐著「ハーバードの人生を変える授業」(大和書房)、マイケル・ピュエット&クリスティーン・グロス=ロー著「ハーバードの人生が変わる東洋哲学」(早川書房)を取り上げます。

まずは、「ハーバードメディカルスクール式人生を変える集中力」です。著者の一人ハマーネスはハーバード大学医学部精神医学准教授です。やるべきことが目の前にあるのにスマホばかり見てしまう、3つのことを同時にやろうとして結局1つも終わらないということはよくあります。まさに集中力が欠如してしまっているのです。「頭が冴えれば仕事も私生活もうまくいく」と裏表紙に書かれているようにビジネスでも日々の生活でも集中力は重要です。本書では、「感情を上手く操ることができれば、脳内の様々な思考を司る部位を整理してひとつの仕事に集中させることが可能になり、全く新たな世界が目の前に開ける。ストレスがなく頭の中も身の回りもスッキリ整理された実りある人生への第一歩を踏み出せる。そして何より素晴らしいことに、脳に備わった自己統制の能力を、思考回路に組み込むことができる。こうした仕組みを学び、状況に応じて活用すれば、生活全体がスッキリ整理され自信を持つことができる。やり方さえ覚えればいい。本書ではそれをお教えしていく」として、思考を整理する6つの法則が説明されています。集中力が続かないのは思考が整理されていないからだということです.

その6つの法則とは

  1. 動揺を抑える…自分の感情を意識しコントロールする。湧き出る心の動揺を素早く手なずけられれば、早く仕事を終えられ気持ちよく過ごすことができる。
  2. 集中力を持続する…集中力を保ち、周りに潜む誘惑を無視する。
  3. ブレーキをかける…ブレーキを踏めば車が止まるように頭が整理されていれば行動や思考を抑制したり中断したりできる。
  4. 情報を再現する…脳には注意を向けた情報を蓄え、たとえその情報が完全に視界から消えても分析と処理を行って今後の行動に役立てる能力が備わっている。
  5. スイッチを切り替える…集中力も必要だが、他方で注意を引こうとする様々な刺激の優先順位を判断し、素早く柔軟にある作業から別の作業へ移る用意をしておかなければならない。
  6. スキルを総動員する…1から5の能力を総動員して、巧みに組み合わせて目の前の問題やチャンスに対応する。

以上の6つの法則について、具体的にどのようにすべきかが丁寧に説明されています。ハマーネスによれば、脳は高度な抑制と均衡の仕組みを持っていて整理整頓が得意だというのです。したがって、思考を整理することも本来得意で脳内の様々な部位を整理して集中力を高めることができるはずです。コーチングのプロであるムーアは変化を起こせるのは自分しかいないと言っています。本書の中から自分で自分に合ったアプローチに取り組むことが大切だということです。

次に、「ハーバードの人生を変える授業」を取り上げます。「4年で受講生が100倍、数々の学生の人生を変え、ハーバードで最大の履修者がつめよせた伝説の授業の完全書籍化」「あなたの人生に幸運を呼び込む本」と帯に書かれています。本書は、ポジティブ心理学に基づき、その理論を日常生活にどのように取り入れるかのガイドブックをして書かれた本です。本書のワークを実践することで「生産的知識」を育み、経験を増やし、自己の成長を助け、記憶力や理解力を高めることができると言うのです。本書には52のワークが挙げられていてそれを実践することが求められています。どれも簡単なワークですが、そのすべてを日々実践することは難しいと思います。

例えば①感謝する②習慣化する③思いやりの心を持つ④シンプルにする⑤プロセスを楽しむ⑥失敗から学ぶ⑦完璧主義を手放す⑧感情を味わう⑨ありがとうを言う⑩これまでを振り返る⑪内なる声を聴く⑫嫉妬から学ぶ⑬自分の感情を知る⑭ありがたい敵を作る⑮バランスをとる⑯本当の目的を知る⑰転職を見つける⑱気持ちを切り替える⑲心を開く⑳未来から今を眺める・・・その中からいくつかを実践していけばよいでしょう。私もできるだけ実践していこうと努力しています。

最後に「ハーバードの人生が変わる東洋哲学」です。この著者マイケル・ピュエットはハーバード大学東アジア言語文明学科の中国史の教授で、アメリカ人になじみの薄い東洋哲学の講座にもかかわらず、学内NO3の人気を誇る講座だというのです。近年、欧米において、禅やマインドフルネスなど東洋文化に対するあこがれが生まれ流行ってきています。自己中心的・物質主義的な欧米の価値観に対する疑問から神秘的な側面を有する東洋文化に対する興味が高まっているようです。

この本では、孔子孟子老子、内業、荘子荀子などの中国思想家を取り上げ、その思想を、毎日少しずつ自分を変えよ(孔子) 、心を耕して決断力を高めよ(孟子)、強くなるために弱くなれ(老子)、周りを引き付ける人になれ(内業)、自分中心から脱却せよ(荘子)、あるがままが良いとは限らない(荀子)などアメリカの学生向けに説明されています。われわれが、孔子老子などの考え・思想に重点を置くところと少しずれているようにも思いますが、分かりやすい説明で我々にも役立つ内容だと思います。われわれも、自己中心的・物質主義的になってきています。改めて東洋の文化・東洋哲学から学ぶべきところがあるはずです。

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何事にも「誠実さ」が必要

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おはようございます。

政府は、2月の月例経済報告を発表しましたが、「景気は緩やかに回復している」との基本判断を維持しました。消費税増税に伴う消費の落ち込みを認めたがらない政府の姿勢の表れです。先日、米紙ウォールストリート・ジャーナルと英紙ファイナンシャル・タイムズは、日本の消費税増税は「大失態」と酷評し、安倍政権の増税判断を批判する社説を載せました。誰が見ても消費税増税後景気が落ち込み日本経済が不透明となっていることが明らかなのにそれをごまかそうとする政府、新型肺炎に対するお粗末な対応、「桜」問題で虚偽の答弁を繰り返す安倍総理、黒川東京高検検事長の定年延長の法解釈の不当変更(黒川は大学のクラスメートなのであまり批判したくありませんが)など、不誠実かつ傲慢な安倍政権には反吐がでます。まさにここのところの国会答弁を見ていると末期症状です。早く首をすり替えないと日本は国際社会からも見放されてしまいます。政治の分野でも、その他どのような分野でも「誠実さ」は不可欠です。昨日は「素直さ」をあげましたが、「素直さ」と共に「誠実さ」も必要です。

今日は、NIKKEI STYLEの「顧客の苦情が身にしみた・・・島津製作所の社長が現場で学んだ『誠実さ』」という記事を取り上げます。

島津製作所の上田輝久社長は自らな体験・経験をもとに「リーダーは誠実でなければならない」と言われます。相手から「信用できない」と思われたら終わりです。上田社長は、顧客からのクレームに対応する中で、客先に謝りに行き顧客と向き合い誠実に対応するということを通じ相手との信頼関係が構築されその後のビジネスにつながったと言われています。「誠実さ」はリーダーに不可欠な資質です。不誠実なリーダーには誰もついてきません。誠実なリーダーだからこそ、その人を信用して部下もついてくるのです。しかし、「誠実さ」はリーダーだけでなくすべての人に必要な資質です。素直に物事を受け入れ、誠実にそれをこなしていくことから人間は成長します。それによってより良い人間関係が築けお互いに信頼関係が出来上がります。不誠実で傲慢な態度をとる者を誰も信用しません。誠実さはすべての人が身に着けるべき資質です。

また、上田社長は、国内外、社内外を問わず最先端技術を学ぶ重要性を主張されています。島津製作所が技術系の会社であり上田社長が技術職上がりの社長という面もあると思いますが、新しい技術・情報を仕入れて、自分の頭の中で加工して「ビジネスに活かすならこうではないか」と考えたというのです。昨日も書きましたが、素直に新しい情報・物事を受け入れそれを咀嚼して自分のものにして、ある程度蓄積できた段階で何が良くて何が良くないかを自分の頭で考えて判断するのです。これは技術系の会社だけでなくあらゆる企業に必要なことです。自分の頭で考え判断するためには必要な情報や知識を身につけておかなければなりません。そしてその知識は机上の学問で得られたものではなく現場・実践の中から得られるものです。

また、上田社長は自分の考えに固執するなと言われています。社長・経営者が頭でっかちになり頑固に自分の考えに固執するようになると、会社自体が硬直化して良い方向に回らなくなります。柔軟な頭であらゆる角度から物事を見るのです。そのためには「素直さ」と「誠実さ」がどうしても必要になります。企業だけでなく、人生においても失敗することはあります。その時には、即座に軌道修正する柔軟さが必要です。この時も「素直さ」と「誠実さ」があれば、速やかに軌道修正できるように思います。

社長、経営者になる人には「素直さ」と「誠実さ」を磨いてもらいたいものです。

安倍総理以下政治家にも「素直さ」と「誠実さ」を持ってもらいたいものです。あのような連中が(失礼)日本のトップにいるかと思うと情けなく恥ずかしい限りです。猛省を望みます(反省していると言葉だけ繰り返す小泉環境相もいますが)。

私自身も「素直さ」と「誠実さ」を身に着けるべく努力したいと思います。

 

   

くじ引き採用!?

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おはようございます。

今日はプレジデント・オンラインに「花王社長が人材開発部門に『くじ引き採用』を提案した理由」という記事が載っていましたので、そのユニークさに惹かれそれを取り上げることにしました。

花王と言えば、女性管理職比率29・4%、男性の育休取得率42%とまさに日本の働き方改革を身をもって実践している会社といえます。それは、花王が洗剤、化粧品、衛生用品などを製造販売している会社という点が女性が活躍できる会社となったといえる側面もないわけではありません。しかし、花王が積極的にダイバーシティ(多様性)に取り組んできたからだと思います。花王の澤田社長の言葉によれば、「性別や国籍の違いに留まらず、もっと一人ひとりの個性に立脚した多様性です。企業は人で成り立っているのですから、人という資産を最大化し、最大活用を考えることが最も重要です。そして個々の力の最大化は、人材育成につきます。人材育成においては、人間には無限の可能性があり、人を育てるのではなく育つのだという信念のもとに取り組んでいます」というのです。これまでの日本企業では日本人だけ、男性だけで、多様な個性を生かすということができていなかったという点は否めません。そこに外国人なり、女性を混ぜることによって化学反応を引き起こすのです。「混ぜるな!危険」という言葉もありますが、混ぜなければ化学反応は起こりません。化学反応が起これば、日本人だけ、男性だけで出来上がっていたルールが変わり、新しいルールは日本人にも、男性にも使い勝手の良いルールとなる可能性があります。女性が活躍する会社では、育休や時短ということに抵抗がなくなります。しかし、そのためには女性を特別扱いするのではなく、全体の働き方を見直し会社全体、男性の働き方をも変える必要があるのです。花王の男性育児休暇取得率は42%と他の企業に比べれば高めですが、平均取得日数は6.5日と短期取得がほとんどだそうです。管理する側から「いつ何日休暇を取りなさい」というのではなく、自主的に育児休暇がとれる体制を確立する必要があるでしょう。

現在、育休取得自体義務化されていません。条件を満たした男性職員(1年以上雇用され、1年以内に雇用が終了しない労働者)が申し出た場合には会社は拒否できません。拒否すれば罰則規定があります。しかし、実際には、男性が育休を取得できるような職場環境ではなく、昇進や給与にも影響し、積極的に育休を取得するのは困難です。国も育休取得の義務化を進めていますが、企業も積極的に就業規則を改定し、育休取得者が不利益を被らないような職場環境を作るように取り組むべきでしょう。

澤田社長は、昨年人材開発部門を担当し、「くじ引き採用」という案を提案したというのです。企業が人材を採用する際には何段階にもわたり面接を繰り返します。最低限のボーダーさえ超えていれば誰を採用してもよいのではないか、極端な話、くじ引きで決めてもよいのではないかというのです。確かに、学校の成績や数回の短時間の面接だけその人物の持っている能力や性格、適性を判断することは困難です。それでは本当に優秀な人材を採用できているかわかりませんし、採用時にトップの成績だった者が数十年後もトップにいて社長に就任するわけではありません。人は自ら歩む環境によって育てられ育つのです。採用後どのように教育して育てていくかが重要なのです。その意味では、ある程度のレベルに達していれば、誰でもよいというのは一理あるように思えます。応募者にくじを引かせるなら「くじ引き採用」の方が公平かもしれません(笑)。この段階で必要なのは素直さだと思います。素直に人の話を聞いてそれを受け入れていくというのが第一歩です。これに対しては、必要なのは素直さではなく批判的な目で物事を見ることだという意見もあるかと思います。しかし、素直であるということは、色々な情報やアドバイスをすんなりと受け入れそれをフィードバックすることで視野や考え方を拡げることができます。採用された段階では何もわかっていません。無垢な心であらゆるものを吸収することで血となり肉となるのです。吸収したうえでそれを咀嚼しそれがある程度蓄積された段階で何が良くて何が良くないかを判断できるようになるのです。だから、まずは何事にも興味を持って素直に吸収することから始めるべきです。また、素直であれば多くの人が集まり良好な人間関係を築くことができます。

企業においても、素直な人が成長し伸びるように思います。ある程度のレベルに達していて素直な人であれば「くじ引き採用」しても良いのではないでしょうか?そうすれば採用にかかる時間と労力を削減できるのではないでしょうか? 花王では、この「くじ引き採用」は人事部門から「しばらく考えさせてくれ」と直ちに採用には至りませんでしたが、なかなか良い案だと思います。採用してみても良いように思います。いかがでしょうか。