中小企業が日本を救うbusiness-doctor-28

中小企業経営のための情報発信。中小企業から日本を元気に

コロナ禍で低下したモチベーションへの対処法

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で19,311人、そのうち東京3081人、神奈川2362人、埼玉1463人、千葉1207人、愛知1385人、大阪2389人、兵庫916人、京都469人、福岡957人、沖縄580人、北海道359人などとなっています。日曜日ということもあり2万人は下回りましたが、全国の重傷者は2070人と17日連続で過去最多を更新しています。モデルな生ワクチンの異物混入で、接種直後に2名の方が亡くなっています。厚労省は因果関係は不明としていますが、有耶無耶にすることなく、異物混入の原因を究明するとともに、亡くなった方や副反応が出た方には真摯に対応して行うべき補償はしっかりとすべきです。

さて、今日は、キャリコネニュースの「部下のやる気が崩壊、管理職のモチベーションも限界・・・一体どうすればいい?」を取り上げます。

この記事では「コロナの影響で目標達成が全く見えず、メンバーの士気が下がっている。目標は下げられない。メンバーのモチベーションをどう上げたらいいかわからない。そもそも、自分自身のモチベーションも上がらない」といった相談に対し、こうした状況を打開する方法が説明されています。

コロナ禍で、新型コロナ関連の倒産件数は1850件で(帝国データバンク)、東日本大震災後10年間の震災関連倒産に匹敵する数字になってきています。業種別では、飲食、建設、宿泊と続き、依然として厳しい状況にあります。このところの新規感染者数の推移をみると、9月12日に緊急事態宣言解除は難しく、デルタ株による感染爆発から、いつ解除できるのか全く先行きが見通せません。

1.先の見えない時代に必要なこと

 先が見えない状況では、すべての人が不安感を抱き、上司もメンバー(部下)も心身ともに疲弊し、モチベーションを高めたり維持することが難しくなっています。こんな時こそ、仕事の目標や人生の目標を自分自身で見つけていく力が必要です。

 企業は、いかに未曽有の危機に直面したとしても、「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を、それぞれの資源の特徴を生かしながら統合し、複数の人が共に働く持続的な協働体系に仕上げ、市場での戦いに勝ち抜いていかなければなりません。その中で最も重要な経営資源は「ヒト」ですが、「ヒト」という経営資源を最大限生かすには人間関係やモチベーションのような非経済的な動機が重要になるのです。

 こうした中、社会学・心理学など多様な学問を包含している行動科学が経営学に取り入れられ、「人間は何によって、またはどのように、特定の行動に動機づけられていくのか」が研究されたのです。

 モチベーション(動機づけ)は行動又は活動を喚起させ、それを維持し、そのパターンを統合していくプロセスであり、具体的には、従業員の持つ様々な欲求や期待を、企業がいかにして充足し、積極的な行動に向かう彼らの意欲・原動力を掻き立てるか、ということです。

モチベーションに関する理論には、マズローの欲求5段階説、アージリスの未成熟=成熟理論、マグレガーのX理論・Y理論などがあります。マズローの5段階説やマグレガーのX理論・Y理論については、2021/3/5「『ご褒美型』では効果薄!モチベーションを上げる方法」で書いていますので参考にしてください。

 この記事では、ハーズバーグの動機づけ=衛生理論(二要因理論)が取り上げられています。

 ハーズバーグは、「嫌な経験(職務不満足)」の要因を「衛生要因」と呼び、「良かった経験(職務満足)」の要因を「動機づけ要因」と呼んでいます。

 衛生要因(不満足要因)は、生命喪失、飢え、痛みなどの不快を避け、安全を図りたいという回避欲求で、欠乏すると職務不満に結びつき、充足しても不満の減少にはなるが積極的満足にはつながらないものです。「不満」の反対は「満足」ではなく「不満なし」にしかすぎないのです。

 一方、動機づけ要因(満足要因)は、継続的な生悪心的成長にお寄り、自らの潜在能力を実現したいという欲求で、充足されれば職務満足に結びつき、欠乏しても必ずしも不満の増大にはならないのです。「満足」の反対は「不満」ではなく「満足なし」ということです。

 したがって、給与や物理的な作業環境などで、従業員が感じている不満の原因を取り除いても、不満を緩和させるだけで、従業員の動機づけにはつながりません。従業員の仕事に対する動機づけを高めたければ、仕事の達成とその承認といった仕事そのものにかかわる要因を重視しなければならないということです。

 ハーズバーグは、「人間を満足させて仕事へと動機づけしていくためには、『動機づけ要因』に働きかけていくことが必要であり、そのために『職務充実』を図らなければならない」と言っています。ここでの「職務充実」とは、職務上の判断、洗濯など担当者の自己裁量をもっと認め、現在の職務の中に、計画や統制などの管理的要素を付加して責任や権限の範囲を広げ職務を垂直的に拡大することを言います。

 簡単に言えば、例えば、仕事の成果を認められること、責任ある仕事を与えられること、承認欲求が持たされること、重要な決定に参加すること、自分の成長を実感することなどです。

 この記事では、上司自身とメンバーの衛生要因と動機づけ要因の現状を整理することが重要であると言い、その際、以下のポイントで整理することを勧めています。

  1. 仕事の目的に対して役割と目標達成状況
  2. 役割に対する承認行為(結果とプロセスに対する承認を分けて整理)
  3. 売上達成以外での達成要因や成長要因の有無

2.どんなことをすればいい?

 ここでは、内発的動機と外発的動機について説明されています。

 内発的動機というのは、「内面に沸き起こった興味・関心、好奇心や探求心、意欲」などを言い、外発的動機は「アメとムチ」のように外から刺激を与えることです。

 上司もメンバーも、モチベーションがなかなか上がらないときには、内発的動機に焦点を当てた施策を考えるのがいいのです。

 内発的動機づけが得やすいのは、仕事の中で「自分の能力を発揮できている」『自分自身で目標を定め、計画を立て、実行している」といった感覚があるときだとされています。目標や目的が明確に定められている、できるという感覚が感じられる、自己裁量権が与えられていると感じられる、チームに安心やつながりが感じられる、上司のサポートがある、キャリア目標があるなどです。

 この記事では、次のような施策例が紹介されています。参考にしてください。

  • チームの目標や目的をチームメンバー全員で考えるワークショップの開催
  • これまで培ってきた能力とこれから育んでいきたい能力を明確にした勉強会
  • メンバーの自己裁量権を伝える1on1ミーティングの開催
  • 現在の悩みや課題をチームで共有する泥吐きの場の開催
  • 外部講師を招いてのキャリア研修会

コロナ禍で企業・個人も誰もがが苦しい時期です。こんな時だからこそ上司と部下との対話、人との対話を大切にしつつ、仕事や個人の目標を明確に定め、前向きに進んでいきたいものです。

休日の本棚 リーダーシップ 胆力と大局観

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で22,750人、そのうち東京3581人、神奈川2378人、埼玉1608人、千葉1630人、愛知1891人、大阪2641人、兵庫1050人、京都540人、福岡953人、沖縄655人、北海道457人などとなっています。5日連続で2万人を超え、重傷者は2060人で16日連続で過去最多となっています。重傷者の大半が若年層・中年層で、デルタ株の恐ろしさを表しています。東京都の予約がいらない若者向けワクチン接種会場は長蛇の列で、若者のワクチン接種の意識が変わりつつあるように思います。しかし、抽選倍率は6倍強、並んでも接種できない人が大半という事態が続けば、若者のワクチン接種に対する熱もすぐに冷めてしまいます。抽選券を得るのに並ばせるというのは密を生むだけです。ネットで申し込み、当選者に通知すれば並ばせる必要はありません。何よりも希望者全員が摂取できるワクチンを確保することが先決です。

毎日新聞による世論調査によれば、菅内閣の支持率は26%で最低を更新し、不支持率は66%でした。26%もの支持がいるというのも驚きですが、菅政権のコロナ対策を「評価する」という人が19%もいることに驚きを隠せません。後手後手の対策で、無為無策・無知無能を露呈している菅政権のコロナ対策のどこを「評価する」のでしょうか? 自民党総裁選をめぐり、各派閥の結束が緩んでいます。党内の若手・中堅を中心に「菅では衆議院選を戦えない」という危機感・不安感が渦巻き、派閥領袖が再選支持を表明しても派閥メンバーに強制できないという事態になりつつあります。派閥の論理や村社会の論理が間違っているのであって、若手や中堅層から、資質も能力もない菅離れが起きていることは喜ばしいことです。

さて、今日は山内昌之著「リーダーシップ 胆力と大局観」(新潮新書を紹介します。この本は、10年前の2011年の発刊で古いですが、リーダーシップのあり方を示してくれています。この本の帯には「為政者の覚悟を問う 時に激しく、時に臆病に 危機にこそ積極策を、人事に情けは無用」と書かれています。今の菅政権にそのままあてはまります。

この本は、東日本大震災後の民主党政権時に書かれており、鳩山由紀夫菅直人といった民主党政権時の首相に対する批判が前面に出ていますが、著者の山内氏は東京大学名誉教授の歴史学者です。歴史や偉人のリーダーシップから本来のリーダーシップを考える視点が明確に示されていて、今も色あせず読める本です。

山内氏は、「強いリーダーシップの不在が叫ばれて久しい。それは目先の議論にばかり惑わされ、リーダーシップの本質を考えることを避けてきたツケに他ならない」と言っていますが、10年経った今でも変わりません。菅義偉という「史上最低最悪」のリーダーをトップに据えなければならない国民は、今こそリーダーシップの本質を真剣に考えるべきです。

この本は、「いまリーダーにとって真に必要な能力とは何か。吉田松陰の歴史的思考法なのか、山口多門のような危機に積極策を取る胆力なのか、リンカーンのような戦略的思考法に基づく大局観なのか・・・。国家と国民を守るために必要な覚悟」を解いています。

本書の構成は、次のようになっています。

第一部 リーダーの責任

 第一章 宰相の責任のあり方は不変

 第二部 危機に直面したリーダーとは

 第三章 変革期のリーダーシップ

 第四章 歴史に学ぶ戦略的思考

第二部 偉人のリーダーシップ

 第五章 歴史的思考法を持つリーダー・吉田松陰

 第六章 危機に積極策をとつ鋭将・山口多門

 第七章 悪のリーダーシップ・織田信長と松永弾正

第三部 民主党リーダーの置き土産

 第八章 アルキメデスの点を求めた鳩山由紀夫

 第九章 黒幕か僭主か、小沢一郎のリーダーシップ

 第一〇章 退却と責任回避の達人、菅直人

山口氏は、「大震災の復旧復興という最大課題を脇に置きながら政争を繰り広げる現代日本の政治模様を見るにつけ、政治家とリーダーシップのあり方、現実のむずかしい政治論点を突破するリーダーの力量とは何かを考える(必要がある)」と言い、日本の政治家に佐藤一斎「言志録」「一物の是非を見て、大体の是非を問わず。一時の利害に拘りて、久遠の利害を察せず。政を為すに此くの如くなれば、国危うし」(ある一つの良し悪しを見て、全体の良し悪しを考えない。一時の利害にこだわって永遠の利害を考えない。もし為政者がこうであったなら国は危機である)という言葉を菅直人をはじめ日本の政治家に読んでもらいたいと言っています。今ならば菅義偉をはじめ二階、安倍その他与党・野党を問わずすべての政治家などに読んでもらいたい言葉です。

第二章では、危機に直面したリーダーとして、明暦大火と保科正之安政地震堀田正睦リスボン地震とカルヴァ―リョの例が挙げられ、大震災などの危機を乗り越えた内外のリーダーには、①心の平静 ②政策的総合力と全体的判断力 ③)理性に叶う公共心(公欲)が共通項としてあったと言っています。

第三章では、変革期のリーダ緒に必要な資質として、①山岡鉄舟の「赤心」(誠意・まごころ) ②西郷隆盛の「正義」と「正道」 ③安藤信正の「平常心」 ④大久保利通の「為政清明などが語られています。

第四章では、①ローマ人の勇気と臆病 ②源義経の「機動力」リンカーンの決断 石原莞爾の見通す力 ④毛沢東の詩的弁証法 ⑤秋山兄弟と「アラビアのロレンス」の柔軟さ などが語られています。

第五章では、歴史的思考法を持つ吉田松陰、第六章では、危機に積極策を取る山口多門、第七章では悪のリーダーとして織田信長と松永弾正が取り上げられています。

第八章では、政治家に求められる資質は歴史家と重なる面があるとし、複雑な事象を解きほぐす現実感覚、政策目標へ単純明瞭に迫る力、人間心理の洞察力などを挙げ、鳩山由紀夫にはこれらの資質が欠けていたと言っていますが、菅義偉にも欠けています。 

この本の結びで、山内氏は、リーダーの資質について語っています。

リーダーは、必ずしもカリスマや天才である必要はありません。リーダーの条件は、行きつくところ総合力、胆力、人心掌握力の3つに尽きると言います。

  • 総合力=全体・全局を見通す力(大局観) 未曽有の危機ではリーダーとしての総合力と大局観が試される。
  • 胆力=何があっても動じない強い平常心 あからさまにいら立ちを見せてはいけない。
  • 人心掌握力=人を上手く使う能力 賢人の存在を知って、その人物を活用し、大事な仕事を任さなくてはならない。

この総合力、胆力、人心掌握力は、政治家だけでなく、企業リーダーである経営者にとっても当然必要な力です。

リーダーとして自らを高めていくためには「歴史に学ぶ」という姿勢が大切です。歴史には、様々な苦難を乗り越えてきた人類の経験が刻まれています。「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ハラリも「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を広げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、したがって私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためだ」と言っています。過去の歴史を昔話として聞き、教訓として覚えても、自分の行動に活かさなければ意味がありません。歴史の教訓をいかに未来に活かしていくかで多くの可能性が開けるのです。

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休日の本棚 コア・コンピタンス経営

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で24,200人、そのうち東京4227人、神奈川2662人、埼玉1524人、千葉1489人、愛知2347人、大阪2814人、兵庫1061人、京都524人、福岡996人、沖縄692人、北海道382人などとなっています。重傷者は初めて2000人を超え、自宅療養者は11万人と1週間で1.5倍に跳ね上がっています。それに伴い、各地で自宅療養中の死者も出ています。政治の無為無策・無知無能に憤りを覚えます。我が家の近くの医療法人が経営破綻しました。経営難を乗り越えようやく軌道に乗りかけていた矢先、大阪府の強い要請で軽症・中等症のコロナ患者を受け入れたことで外来患者の数が落ち込み、人件費の増加が重なり、資金繰りがひっ迫したようです。コロナ患者の入院を受け入れている医療法人の経営破綻は全国初ですが、医療体制がひっ迫すればするほど今後もこうした事態は起こり得ます。こういうリスクがあるがゆえに民間病院がコロナ患者受け入れを拒否するのであって、受け入れを拒否する病院を批判できません。多くの医療従事者が不眠不休で頑張ってくれています。国や地方公共団体が、経営面での支援をしっかりと行わなければ、コロナ収束後日本の医療は完全に崩壊してしまいます。

さて、今日は、G・ハメル&C・K・プラハラード著「コア・コンピタンス経営 大競争時代を勝ち抜く戦略」(日本経済新聞社を紹介します。原書は、「Competing for the Future」(未来のための競争)です。なお、「コア・コンピタンス経営 未来への競争戦略」として文庫化もされています。

この本が出版されたのは1995年で、日本企業が圧倒的に強さを発揮し、アメリカ企業は長い低迷期から脱しようやく成長に転じようとしていた時代です。この本には、ソニー、ホンダ、シャープ、東芝などの日本企業が成功例として紹介されていますが、現在これらの企業は低迷に苦しんでいます。一方、アメリカ企業は復活を遂げています。 

競争が激化し、企業の持つ経営資源が相対的に希少化してくると、企業はその戦略として、投資の効果や効率を最大化しようとします。

経営資源を投下する際、競争市場のどこに、どのように自らの存立基盤を築くのかが「ドメイン(市場内生存領域)」の問題です。ドメインを策定するには、市場のニーズを反映し、競争上の差別優位性を発揮できる分野に特定化することです。そのために、①顧客のどのようなニーズに対応するのか(What)②ターゲットとなる顧客層は誰か(Who)③どのような独自技術やノウハウを用いてどのように提供するか(How)の3つが重要になります。そのHowの部分がコア・コンピタンスです。

コア・コンピタンスとは「自社の中核的な技術やノウハウ、自社の最大の強み」「顧客に対して他社にはまねできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な能力」のことです。この本の例でいえば、ソニーの製品を小さくまとめる技術やホンダのエンジン及び駆動系技術、シャープの液晶技術などがそれに当たります。

かつて、ソニーは電子技術とメカニカルな機械技術の組み合わせによって、製品の小型化に成功し、この小型化技術を「コア技術」として、顧客に「携帯性」という価値を提供する、携帯ラジオ、ウォークマン、ハンディカムなどの製品を作りました。

また、ホンダは、徹底的に究めたエンジン技術を「コア技術」としてCVCCというエンジン技術により省エネや排ガス規制に対応した初代シビックを作りました。

シャープは、液晶技術を「コア技術」として。製品の小型化・省エネ化が可能となり、小型電卓、電子手帳ザウルス、液晶テレビなどを作りました。

このように「コアとなる技術」と「顧客の利益」が結びつくことによって競争に打ち勝つ強い製品が生まれています。

しかし、コア技術も、それで成功した企業があると当然それを真似しようとする企業が出てきます。今のコア技術が10年後20年後もコア技術として企業の強みになるとは限らないのです。コア技術の上に胡坐をかくのではなく、時間をかけて常に磨き続けなければなりませんし、常に新しいコア・コンピタンスを見つけ育てていかなければなりません。

かつて勝ち企業であったシャープは、液晶テレビが大きな売り上げを占めると、商品技術である液晶テレビに重点投資し、コア技術への投資を怠り、液晶テレビが衰退しはじめると、次の目玉商品を生み出せず、今では台湾企業の傘下にあります。

 コア・コンピタンス経営は、企業が中核的な能力を徹底的に磨き上げることで、新しい市場を創造し、持続的な成長企業を実現するという競争戦略です。

 コトラーによれば、企業の競争地位は、「リーダー」「チャレンジャー」「フォロアー」「ニッチャー」の4類型に分かれます。

 「リーダー」は、当該市場における最大シェアを保持している業界最大手の企業であり、最大シェアを確保・維持するためにドメインを広く抽象的にするオーソドック戦略をとることになります。「チャレンジャー」は、リーダーの地位を狙って挑戦する企業で、リーダーと同質化戦略をとっても勝ち目はないので、顧客機能や独自能力によってリーダーと徹底的な差別化を図ろうとします。こうしたチャレンジャーにはコア・コンピタンス経営が適していると言えます。「フォロアー」は、リーダーとチャレンジャーが熾烈な争いをしている市場を避け、その他の市場で模倣戦略を取ります。「ニッチャー」は市場内のニッチな部分で、ドメインの範囲を限定し、そこに合うニーズと独自技術・ノウハウを使って差別化を図ります。ニッチャーもコア・コンピタンス経営が適していると言えそうです。

コア・コンピタンス経営には次の3点が重要です。

1 企業が追及すべき顧客の便益を明らかにする

 多くの企業が顧客ニーズを把握することの重要性は理解していますが、十分に顧客ニーズを把握しているとは言えません。漠然と顧客ニーズを把握しているだけでは適切な競争戦略を打ち立てることはできません。顧客ニーズを把握し、それを細分化して、自社が提供すべき便益と細分化された顧客ニーズを明確に結びつけることで、迅速な対応が可能となるのです。

.顧客の便益を提供するのに必要な自社の技術・能力を高める

 自社が保有する経営資源には限りがあります。「選択と集中」の観点から限られた経営資源をどこに投下するのかを決めなければなりません。自社のコア・コンピタンスをどこに設定するのか、ドメインをいかに絞り込んでいくのかという戦略的な意思決定は経営者の重要な役割・任務です。

 常に、顧客のニーズに合った便益を提供し続けるためには、自社の技術や能力に常に磨きをかけ高めていかなければなりません。

3.企業と顧客との接点を重視する。

 自社の持つ技術と顧客ニーズが上手く結びつくと、消費者の支持を受ける製品やサービスが生まれます。しかし、時間の経過とともに、自社のコア技術と顧客ニーズの間にずれが生じるようになります。それは、消費者(顧客)は一旦便益が得られると、それに満足せずより高い便益を求めるようになるからです。企業は、常に市場の動向を把握し、顧客の声を拾い上げデータベース化し、社員全員が共有できるようにして、開発改善に取り組んでいかなければならないのです。

コア・コンピタンス経営は「市場の発見・創出につながら未来の戦略だ」というのは良く分かります。文庫化で「未来への競争戦略」と副題がつけられているのも納得できます。これまでの価格競争を重視した戦略とは一線を画するものです。

かつて日本企業が自社の強みを活かして欧米に打ち勝ってきたコア・コンピタンス経営は、長期的な視野を持って、コア・コンピタンスの発見と保持、その発展に努力するとともに、それを製品やサービスに巧みに生かしていく方法を見つけなければ、日本企業が低迷したようにやがて終焉を迎えることになります。多くの日本企業が低迷しているのは、コア・コンピタンスを発展させることができなかったからです。

企業の力としてのコア・コンピタンスは、最終的には個々の社員のスキルや、ノウハウにまで分解されます。組織内に分散している個々の暗黙知的なスキル、ノウハウを全体で共有し知を創造し、それを企業の力に転換していくことが大切なのです。嘗ての日本企業にはこうした強みがありました。組織の末端のレベルまで巻き込んで独自の企業力を育てなければなりません。その点を忘れて効率化を重視した経営に走った結果、日本企業は衰退していったと言えそうです。

コア・コンピタンスの視点がないまま。効率重視でリストラやダウンサイジングによる省力化や効率化を推し進めるならば、社員のモチベーションやエンゲージメントを低下させ、コア・コンピタンスを支える人材までも失い、ついにはコア・コンピタンスまでも失う危険性があるのです。

コア・コンピタンス経営」も競争戦略の一つにしかすぎません。絶対的に正しい戦略というものはありません。どのような戦略にもメリットとデメリットがあります。この点を頭に入れたうえで、自社の競争地位を考慮し「自社の強み」を活かしていく「コア・コンピタンス経営」を今一度見直してもいいのではないかと思います。

今日は、本の紹介というよりもコア・コンピタンス経営の説明になってしまいました。

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社内の「同調圧力」に対する対処法

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で24,976人、そのうち東京4704人、神奈川2632人、埼玉1709人、千葉1396人、愛知2141人、大阪2830人、兵庫1007人、京都608人、福岡992人、沖縄680人、北海道504人などとなっています。オ愛知、大阪、京都をはじめ、7府県で過去最多を更新しました。東京では4日連続で前週の同じ曜日を下回りましたが、検査が追い付かず(検査数が減っている)、同じ数くらいの「隠れ感染者」がいるとの指摘もあります。東京商工リサーチによればコロナ関連の破綻が2000社に迫ろうとしています。これは東日本大震災後10年間の震災関連破綻に匹敵する数字です。今まではコロナ関連融資や政府の支援で何とか持ちこたえていた「破綻予備軍」が多数存在し、今後、政府が迅速かつ適切な措置を取らなければそれが顕在化する可能性は高いと思われます。国民の安全安心を守ることもできず、経済の破綻を招き企業を窮地に陥れる(アトキンソンの『中小企業不要論』を信奉する菅首相としては思い通りかもしれませんが)菅政権は早急に退席してもらいたいものです。自民党総裁選が9月29日投開票と決まりましたが、相変わらず「派閥の論理」で動いています。派閥の論理で行けば菅再選もあり得ます。少なくとも今回は前回と違い、党員投票も行われますが、どちらにしても、国民が選ぶわけではありません。国民が選んだわけではない自民党総裁が一国の首相になるというシステムは改めるべきです。国のリーダーは国民自身が直接選出する大統領制を導入すべきです。いずれにしても、このコロナ禍という緊急事態で、臨時国会も召集せず、政局を放置して総裁選に没頭するというのはいかがなものかと思います。奇しくも石破茂氏が言うように、「今は政局よりもコロナ対策を優先し、与野党が知恵を出して国民の不安を払拭すべき」です。一昨日、菅首相は「明かりがはっきりと見えている」と言いました。しかし、国民の目には明かりは見えません。国民は、長い真っ暗なトンネルの中を、出口も見えずに不安を抱えながら手探りだけで進んでいます。菅首相や政府がやるべきことは、国民が出口に向かって堂々と進んでいけるように国民の足元をしっかりと照らすことです。今は、コロナ対策を最優先にし、総裁選は衆議院選挙後でいいと思うのですが。

さて、今日はダイヤモンドオンラインの「社内の『同調圧力』への正しい対処法 組織論の専門家が解説」という記事を取り上げます。この記事では、「同調圧力の正体」(PHP新書)の著者である太田肇・同志社大学政策学部教授が、日本特有の「同調圧力」について解説しています。

コロナ禍になって「同調圧力」という言葉がメディアで使われる頻度が増えています。そこでは「同調圧力」という言葉がネガティブな意味合いで使われるのが一般的ですが、三省堂大辞林では「集団での意思決定の際に多数派の意見に同調させるように作用する暗黙の圧力」と書かれています。「同調圧力」とは、自分の考えや意見と異なる判断基準を他者から押し付けられ、その押し付けられた判断基準に基づいて行動してしまう時に感じるものです。それは、押し付けた側が多数派であり、その多数派の判断基準に従わないと何らかの不利益を被るかもしれないと感じてしまうことから生まれるものです。このように「同調圧力」という言葉は、少数派の視点に立った言葉で、多数派からすれば、少数派は集団全体のことを考えない「自分勝手」「自己中心的」な理不尽な存在と映るのです。

集団の構成員全員が同じ意見や考えを持っていれば「同調圧力」は存在しません。1000人の中の1人が多数派に反対する意見や考えを述べても「変わり者」と相手にされず「同調圧力」が問題になることはありません。それが10人、100人、200人と増えるにつれて、反対意見を無視することができなくなり、少数派の意見も取り上げられるようになるのです。そうなると少数派としても自己主張をさらに強め、多数派を「同調圧力」と批判するようになります。このところ「同調圧力」という言葉が頻繁に使われるようになったのは、マスコミやSNSの影響からそれだけ少数意見が取り上げられ、力を持ってきたからではないかと思います。

1.日本で同調圧力が発生する3つの要因

 太田教授は、日本の同調圧力の発生について3つの要因があると言っています。

  1. 閉鎖性・・・日本は島国であり他国に比べ移民も少ない。企業では終身雇用、年功序列企業別組合があり、転職による移動もしにくく、閉鎖性が強い。
  2. 同質性・・・日本は他国に比べ異民族の割合が低く、宗教や価値観、文化に大きな違いがなく、同質性が高い。
  3. 個人の未分化・・・日本では、個人ごとに仕事が割り当てられるのではなく、チームや課で行うことが多い。学校でも地域社会(町内会等)でも共同作業が重視され、組織だけでなく社会全体で、個人よりも全体を重視するきらいが強い。

2.SNSの普及で同調圧力が過激化

 日本では、共同体の一員と自覚し、帰属することで精神的な安定を得ようとする「共同体意識」と絆や結束を謳い一致団結を最優先する「共同体主義」がありました。このような共同体主義が戦後日本の復興には大いに役立ってきたことは否定できません。

 しかし、IT化やグローバル化に伴い大きく変わった社会の中で、従来の閉鎖的・同質的な日本の社会構造や企業の体制では上手く回らなくなってきました。

 太田教授は、「同調圧力を表面化させ、さらに過激にしているのはSNSだ」と指摘します。かつての同調圧力はタテ方向から与えられていたのに、現在ではSNSに代表されるヨコ方向の圧力が強くなったというのです。かつては政府などの体制側からの圧力、無際限な貢献を求める企業のルール(騎乗組織からの圧力)、上司からのパワハラといった上から同調圧力タテ方向の圧力)ですが、今ではSNSなどの姿も見えず名前もわからない人からの水平方向からの圧力(ヨコ方向の圧力)が強力になってきているのです。

 タテ方向の同調圧力には「権力」や「序列」が前提としてあるのですが、ヨコ方向の同調圧力には「正義」が前提としてあります。しかも厄介なのが、「正しい正義」だけではなく、本人が正義と信じる「間違った正義」も多いのです。SNSの無数の声によって、仮に間違っていたとしても「正義」のお墨付きが与えられると、それに異を唱える者は容赦なく糾弾されてしまいます。姿も見えず名前もわからない人たちからのヨコ方向からの圧力に抵抗することは容易ではありません。

 仮に「正義」が正しいものであったとしても、異なる意見を言える余地と尊重できる土壌が必要で、それが社会の健全化につながります。SNSももともとは自由に自分の意見や考えが言える場であったはずです。それが、どんな小さなミスや間違いでも他者を徹底的に糾弾し、追放し、時には自殺にまで追い詰めるという場になったのは絶対に許されることではありません。

3.フリーランスの増加で同調圧力社会は変わるか

 SNSの普及やコロナの自粛によって同調圧力は強まるばかりですが、個人がそれに対抗するにはどうすればいいのでしょうか。

 太田教授は「閉鎖性・同質性・個人の未分化と逆の行動をとればいい」と言います。会社で言えば、「閉鎖性を破り、他部署とネットワークを築く。特定のグループや派閥に近づきすぎず等距離外交を図る、『自分のタスクさえこなせばムダな残業はしない』と公言する」などです。なかなか難しいことです。

 また、太田教授は、「現状を改善するには仕組みを変え、組織から変革していくしかない」と言います。これについては異論はありません。全くその通りです。企業は時代や社会の変化に伴い、成長を続けるために組織の変革は欠かせません。コロナ禍により社会や環境が著しく変化している今、その変化に合わせて変革を行った企業が成長し続けることができるのです。

太田教授は、「組織にフリーランスを多く入れたり、中途採用の割合を高めたり異質な人を増やす。フリーランスがもっと増えれば、自然に同調圧力が強い組織には自然と人が集まらなくなりオープンな社会に近づく」と言っています。

しかし、雇用の流動化だけでは、同調圧力を抑制することは困難ではないかと思います。ヨコからの同調圧力は、単にSNSだけに限らず、職場における「同僚からのいじめ」としても顕在化しています。雇用の流動化としてフリーランス中途採用者を増やしても、それだけで同調圧力社会が変わるとは思えません。結局は、どのような人を増やすのか、人材をどのように育成していくのかといった「人の問題」につきるように思います。それは、より良い人間関係や信頼関係を築くこと、そのために心を通わせる対話やコミュニケーションが大切だということに行きつきます。

 

リモートワーク、変革にはストーリーの共有が必要

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で24,321人、園生と東京4228人、神奈川2304人、埼玉1641人、千葉1452人、愛知1815人、大阪2808人、兵庫1088人、京都531人、福岡1094人、沖縄809人、北海道568人などとなっています。大阪をはじめ10府県で過去最多を更新しました。東京は3日連続で前週の同曜日の数字よりは減少していますが、検査数自体減っており陽性率はほぼ20%でほとんど変わりません。重傷者は最多を更新しています。緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の適用範囲が拡大され、昨夜菅首相が会見を開きました。原稿棒読み、覇気のない喋り方、発信力の低さは相変わらずです。記者の質問に対し「自分もテレワークをしている」と発言しましたが、菅首相が言おうとしたのはオンライン会議のこと、テレワークとオンライン会議の区別・意味の違いも理解できていないバカさを露呈しました。また、菅首相は、ワクチン接種率が上がっていることを理由に「明かりははっきりと見え始めている」と相変わらずの根拠なき楽観論を振りかざしました。危機管理の基本は的確な現状認識と分析ですが、まともな現状認識すらできていません。菅首相は、完全に認知バイアスと確証バイアスに支配されています。認知バイアスとは、自分の思い込みや偏った常識から引き起こされるもので、確証バイアスは自分の都合のいい情報ばかり集めてしまう現象です。人間だれしも、多かれ少なかれ、認知バイアスと確証バイアスを持っていますが、菅首相は異常です。異常な認知バイアスと確証バイアスで適正な現状認識・分析も判断もできないリーダーでは、危機管理以前の問題で国が滅んでしまいます。ジャーナリストの元木昌彦氏が、「ついに安倍前首相を上回り『戦後で最悪最低の首相』になった」と言っていますが、まったくその通りです。困ったものです。

さて、今日は、DIGIDAYの「リモートワークの推進役、なぜマーケターが抜擢されるのか?変革にはストーリーの共有が大切」という記事を取り上げます。

コロナ禍で多くの企業がリモートワーク・テレワークを取り入れました。多くの企業では、リモートワーク・テレワークの推進は人事部の仕事だとしています。

日本の企業ではありませんが、ネット印刷通販のビスタプリントでは、コミュニケーション領域の上級役員マッキンレー氏がリモートワーク推進の責任者に抜擢され、ソフトウェア開発のギットラボもマーケティング部門に所属するマーフ氏をリモートワークの責任者に抜擢しました。これらの企業以外でも、フェースブック、ドロップボックス、など多くの企業がリモートワーク専任の役職者を採用しています。

マッキンレー氏は「これまでのオフィスワークからリモートワークに大転換させるには、強力なコミュニケーション戦略が必要だ」と言い、マーフ氏は「リモートワークの推進は人事部の仕事だという思い込みは捨てたほうがいい」と言っています。

リモートワーク責任者の最も重要な仕事は、リモートワークという新しい働き方の価値やメリットを社内外に伝えることです。そうすると、リモートワークに関する知識やノウハウというのは、マーケティングやコミュニケーション分野に通ずるものがあるといえそうです。

ジョブ型雇用や成果主義アメリカにおいてすら、リモートワークの推進は大変な変革なのですから、年功序列・終身雇用の日本ではなおさら困難な変革になります。

1.ストーリーの共有が大切

 ストーリー不在の変革では「強制」感が出てしまいます。「ストーリーを皆と共有し、『この変革は目的(目標)実現のためだ』という動機付けを行うことが重要である」とマーフ氏は言います。

 これは、リモートワーク推進に限ったことではありません。

 楠木建氏が「ストーリーとしての競争戦略」の中で言っているように「戦略の神髄は思わず話したくなる面白いストーリーにある」のです。企業経営は、社長や経営トップが掲げる経営理念に社員が共感し、一丸となって目標や目的に向かって突き進むことで、成長・発展していくものです。

 マーフ氏が言うように「リモート化の推進は経営理念の直結する課題で、なぜリモートワークへの転換を進めるのか、その理由を従業員に正しく伝えなければならない」のです。それを従業員に正しく伝え、従業員の共感を得るためには、従業員が面白いと感じるストーリーがなければなりません。

 企業が商品やサービスを顧客に販売するためには、顧客のニーズを把握して顧客から共感を得られる商品やサービスを開発しなければなりません。そして開発した商品やサービスを顧客に購入してもらうためには、その商品やサービスの良さを顧客に伝えなければなりません。これらはマーケティング部門やコミュニケーション領域です。

 会社が大変革を行おうとして従業員の共感を得ようとすることは、商品やサービスを顧客の共感を得て開発し販売することと似ています。まさにマーケティング部門、コミュニケーション領域です。

 「人材の再定義」の著者であるシュミット氏は「リモート化を推進する企業が増えるにつれて、リモートワークやハイブリッドワークの課題が浮き彫りになる。その解決には、マーケティング経験者の支援が必要になる」と言っています。

 リモートワークの責任者には、組織横断的な発信力が要求されます。人材コンサルタントクロケット氏は「とりわけ、人材の部門では従業員のエンゲージメントやリテーション、報酬、諸手当など、勤務綱連携と調整が必要になる」と言っています。

 特に日本では、リモートワークの導入を考える際には、これまでの日本型雇用形態をどうするのか、ジョブ型なり成果主義なりをどの程度取り入れるのかといった問題が出てきます。これらの問題をないがしろにして不十分であれば、統一感のない、断片的な戦略になりかねません。

2.リモートワーク推進の目的や要件を明確に

 リモート化を推進するなら、なによりもまず要件定義を行うべきです。

 リモートワーク・コンサルタントのローレル・ファーラー氏は、「リモート施策を推進する目的が、優秀な人材を集めること、あるいはリモート製品の販売を促進することにある企業もある。一方で、あくまでも従業員のためにリモート化を進める企業もある」と言い、「前者では、リモート施策の価値を外に向かって発信できる人材、マーケティングやノウハウを備えた人材が必要だ。後者ではバーチャルな業務運営に通じた人材が必要になる」と言っています。

 何度も言っているようにリモート化は目的ではなく手段にしかすぎません。何のために、つまりどのような目的や目標を達成するためにリモート化という手段をとるのかということが重要になります。目的が異なれば手段であるリモート化の内容や程度も異なります。まずは、リモートワーク推進の目的を明確にしたうえで、その目的達成のために、どのようなリモートワークをどのような方法でどの程度推進していくのか、事細かに決めていかなければなりません。

3.マーケティングスキルで対処できるとは限らない

 前述のようにリモートで働く従業員の会社への帰属意識(エンゲージメント)を維持するためにコミュニケーションの果たす役割は重要ですが、だからと言って、コミュニケーションやマーケティング部門に任せきりにしていたのではメリットを十分に引き出すことはできません。必ずしも、マーケティングやコミュニケーションスキルで対処できるということではないのです。

 事業の中にはリモートに向く事業もあれば不向きな事業もあります。従業員にもリモートワークを求める者もいれば求めない者もいます。これまでの組織形態や運営体制のままでリモートワークを進められるのかという問題もあります。企業の構想や戦略にも関わってきます。単にマーケティング部門やコミュニケーションに限らない全社的な視点が不可欠なのです。

この記事は、英文を翻訳したものですが、コロナ禍でリモートワークを導入する企業が増えつつある日本でも参考になると思います。

VUCAの時代に求められるマネージャーの役割

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で21,570人、そのうち東京4220人、神奈川1948人、埼玉1316人、千葉1135人、愛知1617人、大阪2368人、兵庫1079人、京都587人、福岡879人、沖縄750人、北海道426人などとなっています。政府は、今日、北海道・宮城・岐阜・愛知・三重・滋賀・岡山・広島の8道県に緊急事態宣言を発令するようです。これで、緊急事態宣言の対象は21都道府県となります。また、高知・佐賀・長崎・宮崎にはまん延防止等重点措置を適用し、まん延防止等重点措置の対象は12県となり、計33都道府県がいずれかの対象となります。あいも変わらず、後手後手の対策で、宣言を出すだけならば、バカでもサルでもできます。いずれにしても東京五輪・パラの強行開催で、政府や菅首相に危機感や切迫感がなく、国民の緩んだ意識を引き締めることはできず、効果薄です。企業もそうですが、緊急事態が発生した時には、トップが危機意識を持ち、その危機感を社員に真摯にかつ丁寧に伝え、トップが持っている危機意識を全員が共有し、一丸となって難局に立ち向かうことで、危機を乗り越えることができるのです。危機感露の基本すらわかっていない人たちが国を動かしているのですから、国民は不幸です。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「働き方の多様な時代にマネージャーに求められる役割とは?」という記事を取り上げます。

この記事は、東京海上日動火災保険会社(以下、「東京海上日動」と略します)の人事企画部人材開発室の桜井武寛氏と菊地謙太郎氏に話を聞いたものです。

東京海上日動は、その経営理念の一つに「社員一人ひとりが創造性を発揮できる自由闊達な企業風土を築きます」と謳っています。東京海上日動は、人材育成に並々ならない熱意を持っている会社です。

1.VUCAの時代だからこそ、多様性を競争力にしたい。

 今は「VUCAの時代」と言われます。VUCAについては、先日も書きましたが、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。簡単に言えば、「VUCAの時代」というのは「先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代」を意味します。「何が正解かわからない時代」と言ってもいいでしょう。

 東京海上日動は、保険という目に見えない形のない物を商品として売る仕事であり、社員一人ひとりが生み出す信頼が競争力の源泉であり、社員一人一人の成長が会社の成長に直結しています。だからこそ、人材育成が経営戦略のうちで最も重視されるのです。これまで「日本で一番『人』が育つ会社」というビジョンが、2021年に「すべての社員が成長し続ける会社」と形を変え、より一層、「社員一人一人の成長」が前面に打ち出されたのです。

 桜井氏は、「VUCAの時代と言われる今、我々に必要なのは多様性を競争力に変えていくことだ」と言います。それは東京海上日動に限ったことではありません。

 いつも言うように企業経営は「人」です。「人」は他の経営資源とは異なり、使い捨てするものではなく、育んでいくべきものです。一部の者が会社全体を牽引していくような企業や組織は、持続的成長はできず、このVUCAの時代では生き残ることはできません。社員一人ひとりが企業や組織にとって重要な資源であり、社員一人ひとりが成長し、その総和が最大化していくことで、会社や組織が成長していけるのです。

菊地氏は「多様性」というキーワードを出す理由として、2つを挙げています。

  1. 正解が一つとは限らず、従来の「勝ちパターン」だけで勝負しても成果を出すことができなくなっている昨今、多種多様な人々の価値観や発想を組み合わせることで生まれるイノベーションが求められていること
  2. 「会社は個の集合体」であり、働くことに対する個人の価値観が多様化している時代において、お互いを認め合い、刺激し合うことで新たな可能性を生み出していく必要があること

 更に、菊地氏は「部下が上司を超えていくような成長をしなければ、会社全体の成長は実現困難だ」と言っています。ところが、部下が成長し自分を超えていくという危機感を抱くと、出る杭を叩くような上司はいます。しかし、部下を育成することは上司の重要な役割です。それも自分を超えていく部下を育成することです。自分が経験してきたことをそのままなぞらせるような経験則重視ではなく、部下が自分の経験を最大限にして自分で成長につなげていける環境が重要です。もちろん経験則も重要で上司が自分の経験を部下に伝え部下の成長を促すべきですが、部下は上司の経験をそのままなぞるのではなく、自分のものとして自分の経験として追体験し自分の成長につなげていかなければなりません。

2.マネージャーの支援がカギになる人材育成の3本の柱

 働き方が多様化しつつある今、マネージャーに求められる役割は非常に大きく複雑になっています。

 まず、マネジメントというのは、ドラッカーによれば「ヒトと組織の強みや創造性を最大限に引き出して経済的・社会的に価値ある成果を上げること」とされています。日本では、マネジメント=管理と捉えることが多いのですが、「管理」というのはマネジメントの一面にしかすぎません。ドラッカーのようにマネジメントをとらえると、マネージャーとリーダーとは近づいてきますが、両者は別のものです。

 マネージャーは特定の目的を達成するためにあらゆる要素を制御することが主たる仕事となります。プロジェクトや領域、予算、時間枠、プロセスなどの物事や、チームメンバーや顧客、業者、パートナーなどの人をマネージし、指令などを順守させ効率的に物事を実行することです。

 一方、リーダーは、コントロールよりも他者に影響を与え鼓舞し、会社の成功に貢献できるようにすることが主たる仕事です。そのために大局的見地からビジョンを立て、それを効果的に伝え、部下たちからの信頼を得ることが必要になります。

 マネージャーとリーダーとは厳密にはその役割は違いますが、ドラッカーのように、マネジメント「自由で生き生きと躍動する人と組織を創り、成果につなげること」と捉えると「組織運営と顧客創造のマネーティングとは密接につながっている」ので、リーダーにもマネジメントのスキルは必要です。

 菊地氏によれば、東京海上日常で重視している点が2つあります。

  1. 多様性を活かせるような組織風土や関係性、育成環境をいかにつくるかという「組織マネジメント」
  2. 個の多様性をいかに引き出すかという「個のマネジメント」

 東京海上日動が拠り所とする考え方は3つあります。

  1. 仕事における人の成長は「7(仕事上の経験):2(上司からの助言や影響):1(研修や読書)」によるという法則
  2. 経験学習理論=経験したことを内省して、成功したことも失敗したことも、次の経験に活かせるように言語化・教訓化することで、成長スピードを高めていくという考え方
  3. 成長循環モデル=組織が成果を出すために、メンバー間の「関係の質」を高めること 「思考の質」「行動の質」を高め、最終的には「結果の質」につながるという考え方 

 桜井氏が言うように、部下の育成が上手くできている組織には、暗黙知のようなものがあります。その組織の成長を全社的に広げるためには、暗黙知形式知化すること、つまり見える化して全員が共有できるようにすることが重要になります。

3.部下の経験学習をマネージャーはどう支援するのか

 経験学習理論には、経験する→振り返る→教訓を引き出す→応用するという経験学習サイクルを回す上で「振り返りの壁」や「教訓化の壁」があると言われています。

 まず、内省を促すには、上司と部下との間に信頼関係があることが不可欠です。「この人の言うことなら受け入れられる」という状況でなければ、何を言われても右から左、場合によっては反発すら招きます。

 熱心さゆえに答えを示したがる上司もいますが、上司は問いを投げかけることで部下に考えさせることが大切です。部下自身が自分で答えを見つけられるようにアドバイスを与えること、つまり「どの観点から振り返るのか」切り口を提供することです。

 東京海上日動には「Our Eight」という8つの行動指針があります。①礼を重んずる ②ごまかさない ③人に関心を示す ④相手軸を意識する ⑤当事者意識を持つ ⑥目的を考えて行動する ⑦臆せずチャレンジする ⑧相手の期待を超える の8つです。これらを一つの切り口にして、日々の経験を内省することを求めています。

 また、東京海上日動には年4回行われる「役割チャレンジ面接」があり、上司と部下とが面談し、部下本人のキャリアビジョンの確認とすり合わせを行い、その内容に基づいて当該社員の育成プランを設定するのです。ここでは、お互いに自己開示もしながら、キャリアに1つの明確な答えはないとの前提で、上司と部下が一緒に悩み考えるようにしているとのことです。

4.マネージャーが自然と自己開示できるような機会を

 「マネージャーはこうあるべきだ」という思い込みが強いと鎧を着こんで、部下が自己開示しづらい雰囲気を作ってしまいます。それでは硬直的な組織になるので、マネージャー自身が自然と自己開示できるような機会を作ることが大切です。

 東京海上日動では、1on1では自己開示しづらいこともあるので、「多対多」の場を設けることで、マネージャーも鎧を脱ぎやすい雰囲気を作り出しているということです。特に、リモート環境が進むと、1対1で特定の誰かが1人を見ているだけでは組織が回らなくなります。多対多で、複数のメンバーがお互いを見守っているという安心感があってこそ、一人ひとりのパフォーマンスは上がります。

 ここでも重要なことは上司(マネージャー)と部下の信頼関係の構築です。そのためには、上司(マネージャー)が自分の鎧を脱ぎ捨て人間として対等に部下に接することが大切です。

以上書いた東京海上日動の事例を真似るというのは難しいと思いますが、企業において大切なのは人であり、人の育成には上司と部下の信頼関係の構築が最重要であることは、どんな企業でも同じです。 参考にしてください。

「在宅勤務」で絶対やってはいけないこと

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で16,841人、そのうち東京2447人、神奈川2579人、埼玉1332人、千葉1504人、愛知1059人、大阪1558人、兵庫538人、京都370人、福岡896人、沖縄280人、北海道420人などとなっています。久しぶりに2万人を下回りましたが、検査数の少ない休日のデータなので減少に転じたわけではありません。神奈川が東京を上回りましたが、陽性率や人口比から考えても恐ろしいことですが、東京ではパラを控え十分な検査を行わず、また隠れ感染者が多数いる可能性があります。今日、パラリンピックの開会式ですが、昨日、組織委員会は歓迎会を開き、菅首相小池都知事ら40名が出席しました。国民には4人以上での会食自粛、不要不急の外出自粛を要請し、妊婦の受入先が見つからず赤ん坊が亡くなったり自宅療養者に死者が出たりする状況で、全く何を考えているのか理解に苦しみます。バカとアホの集まりです。さらに、パラでは学校観戦を強行実施するようですが、それにより感染拡大がさらに進み死者が出た時にどのように責任を取るのか、まずそれを明らかにしてから行ってもらいたいものです。結局は参加した側の自己責任と責任を取らず、有耶無耶にされてしまうのでしょう。菅をはじめ今の政治家には、命を賭ける覚悟がなさすぎます。

さて、今日は、文春オンラインの「『在宅勤務』で絶対やってはいけないこと 『”いらない上司”の烙印を押されてリモート会議にも呼ばれなくなることも」を取り上げます。この記事は、「失敗の責任を押し付けられた」「達成不可能な目標を押し付けられた」「不祥事を隠蔽するように迫られた」など、仕事をしていると直面する「ヤバい場面」にどう対処すればいいのかが書かれた木村尚敬著「修羅場のケーススタディ令和を生き抜く中間管理職のため30問」をもとに解説されています。

【CASE1】突然の『在宅勤務』導入で潜んでいた問題が続出

 コロナ禍で在宅勤務を導入したが、それによって、特定の人に仕事が集中する一方で、ほとんど何もしない人がいる「仕事量の格差」が明るみになったというケースがよくあります。そうすると、上司のところに「何故自分のところにばかり仕事が回されるのか」「誰々はサボっている」などの不平不満が寄せられることになるのです。これではチームとして成果を上げなければならないのに、チームがバラバラになって生産性は低下しかねません。

1.「仕事が遅い人」が得をするという矛盾

 今まで日本では、「会社にいる時間=成果」というように出社すればそれだけで評価されるというところがありました。同じ仕事でも1時間で終わらせる人も1日かける人も評価は同じということです。結局は、仕事が遅い人が得をするという矛盾が生まれていたのです。

 会社に出社し、だらだらとおしゃべりしたり、隠れてゲームをしていたりしていても「会社にいれば仕事をしている」という状況が、コロナ禍の「在宅勤務」で大きく変わりつつあります。出社していれば、上司は部下の行動を自分の目で見て確認することができますが、在宅勤務では、部下が何をしているか見ることができません。在宅勤務でも、旧来型の勤務評価を行っていたのでは、前述の「自分にばかり仕事が集中する」「誰々はサボっている」という不平不満が出てくるのは当然です。

 働くということが単なる労働力の提供という点から知的生産性という意味合いにシフトし、その人が生み出した価値で評価されるようにならなければなりません。

2.数字が見えにくい部門は「質」で評価せよ

 前述の不平不満を解消してチームとしての成果を上げるためには、拘束時間ではなく、成果をベースとした「成果主義」に変えていかなければなりません。問題は成果をどのように評価するかということですが、それが恣意的になるようではまた新たな不平不満を生み出します。

 もともと数字が見えやすい営業部門や制作部門では、数字で評価するということは比較的容易ですが、経理や総務といった管理部門は数字との関連が見えにくく、数字で評価するというのは困難です。こうした部門では稼働時間(仕事の量)で割り振るしか他なさそうです。管理部門ではないけど成果と数字との紐づけが難しい部門も存在します。稼働時間や仕事量だけで仕事を割り振ると、またしても「仕事が早い人が損をする」「仕事の速い人に仕事が集中する」という事態になります。

 これを解消するには、仕事の成果を「稼働時間」と「質」の2側面から評価するという方法が考えられます。そうすると、「多くの仕事をこなし、かつ質も高い人」と「どちらも低い人」「仕事は遅いけど質の高い人」「仕事は早いけど質の低い人」など、それらのタイプに応じて公平な評価は可能になり問題点・改善点が見えてきます。

 成果守護意を導入するならば、成果の評価が恣意的にならない工夫が必要です。

3.あなた自身が「働かない人」扱いに

 中間管理職も油断はできません。密かに「いらない上司」の烙印を押されるかもしれないのです。

 コロナ禍で大きく変わったものに会議があります。これまで、惰性で行われていた会議が、コロナ禍で「あえてリモートでやるまでもない」と中止になったり、「必要なメンバーだけでいい」と規模を縮小するケースも増えています。これまで出社しムダな会議ばかりを行っていた上司は、何もすることがなくなったという事態に陥ります。

 また、人数が制限され規模が縮小された会議に呼ばれないということでは、「働かない人」扱いされているということもあり得ます。

リモートワークや在宅勤務はコロナ禍の一時的なものではなく、少なくとも新しい働き方の一つとして、以前書いたハイブリッド型として残っていくように思います。

今この機会に、従来型の働き方の問題点や課題をしっかりと把握して、働き方を抜本的に見直し、成果主義を取り入れた働き方改革を行うべきではないでしょうか。

ただ、以前にも書きましたが、旧来の日本型の組織がすべて悪いわけではありません。日本型組織の本質や利点を生かしながら、腐った組織に堕ちないように、主体的に考えていかなければなりません。

欧米型の成果主義、ジョブ型雇用が適した企業もあれば、日本型の終身雇用・年功序列、メンバーシップ型雇用が適した企業もあります。それぞれの企業文化に合わせて選択すべきです。確かに、リモートワーク、在宅勤務は成果主義、ジョブ型雇用と相性がいい部分もあります。だからと言ってすべてを成果主義に切り替える必要はありません。成果主義を導入するとしても、それぞれのメリット・デメリットを考慮しながら、バランスを考えて導入することが重要だと思います。

【CASE2】は「極めて仲の悪いライバル2人、どちらかを後継者に選ばなければならない」という場合にどうするかということが書かれています。表題の「在宅勤務で絶対やってはいけないこと」とは関係がないので割愛します。ただ、結論だけを言えば、「これまでの過去の業績ではなく、未来の可能性『5年、10年先を見据えた事業戦略、そこに求められるリーダー像をしっかりと定義して、後継者を選ぶべき」ということです。

図解で人を動かす極意

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で22,302人で、そのうち東京4392人、神奈川2524人、埼玉1696人、千葉1246人、愛知1202人、大阪2221人、兵庫1039人、京都542人、福岡1144人、沖縄586人、北海道529人などとなっています。ほとんどの地域で日曜日としては過去最多となり、三重(432人)と奈良(194人)では過去最多を更新しています。重症者も1891人で10日連続で最多を更新しています。危機的状況ですが、菅首相、菅政権には打つ手なし、機能不全に陥っています。現代ビジネスにも書かれていますが、政府のコロナ対策は「ワクチン一本足打法」で菅首相の「思考停止」が日本を駄目にするというのです。

優秀な経営者ほど、いつも危機意識を持ちながら経営に当たっています。当然、想定外のシナリオになった場合の対応策についても事前に考えています。ところが菅首相には新型コロナに対する危機意識は皆無で楽観主義、「自分がこうなってほしい」というシナリオのみを信じ、それ以外のシナリオなど眼中にありません。当然のことながら危機的状況を念頭に置いて事前に対策を検討するということもありません。そうなると場当たり的に対処せざるを得なくなり、対策が後手に回るのは当たり前です。リーダーとしての資質も能力がないのは、誰が見ても明らかです。昨日の横浜市長選挙は、菅首相が全面支援した小此木八郎が破れ山中竹春氏が大差で当選しました。横浜市民が菅首相に「NO」を突き付けたものであり、これが民意です。これで「菅離れ」「菅おろし」が加速することになるのは必定です。愚かなリーダーに従わなければならない不幸な国民にとっては喜ばしいことかもしれませんが、次のリーダーも似たり寄ったりな愚かな人物になるのではないかと懸念します。ムラ社会・派閥の論理だけで選ばれることがないようにしてもらいたいものです。

さて、今日は、ダイヤモンドオンラインの「トップコンサルが絶賛する『図解で人を動かす極意』とは?」を取り上げます。

1.図解は「上に立つ人」の必須スキル

 ホワイトボードに議論の論理構造を整理し、キーワードごとに箇条書きにできれば合格点、更に思考の補助線となる重要な軸を見つけてマトリックス化できれば、プロジェクトは大いに進捗します。しかも、その場でクライアントと解決の方向性について仮の合意もできます。コンサルタントにとって、イシューの構造化とその図解能力は重要な基本スキルです。しかし、これはコンサルタントにだけ必要なスキルではありません。「いかに人々の発言から論理や因果関係を紡ぎだし、高速で空間に固定するか」ということは、ビジネスパーソンにとっても必要なスキルです。

2.重視するのはスピード! 一瞬で図解する!

 上手く書く必要などありません。いかに議論の流れを止めず、一瞬でわかりやすくシンプルに図解できるかが重要なのです。重要なのはわかりやすさとスピードです。

 他者との討議だけでなく自分自身の思考の整理のためにも図解は重要です。

 この記事では「事象の構造化と文脈解釈によって未来を思考することが重要である」と言っています。

 事象を構造化するには、まず何らかの軸に従って図解化し、それをじっと眺め、意味合いを考えるプロセスを繰り返し、自分の思考を整理し、その文脈を整理するということです。

 思考を図解化するスキルは、複雑な議論を整理し、関係者を巻き込み引っ張っていくためには身につけるべきスキルなのです。

3.ソフトバンク孫社長がやっていたこと

 ソフトバンク孫社長は、アイデアを纏めるときには、文字は少なく、マルヤ資格と矢印に数字を入れ込み、キャラクター漫画の絵もあるメモをよく移動中の新幹線の中で書いていたと言います。

 モノよりもコト、論理よりも完成の時代、経産が早くできたり細かいことを覚えていることより、自分の世界観を直接イメージに落とし込み他社に共感を得られる形で発信できるかということが大切です。

 この記事では「経営者、起業家、政治家、研究者等『理想を言語化見える化し、その理想に向かって協力者を巻き込む必要のある人」は、すべてこの基本スキルを学ぶべきだ」と言っています。 

休日の本棚 史上最強の哲学入門

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おはようございます。

昨日の新規感染者は全国で25,492人、そのうち東京5074人、神奈川2705人、埼玉1875人、千葉1761人、愛知1445人、大阪2556人、兵庫1025人、京都547人、福岡1070人、沖縄678人、北海道579人などとなっています。3日連続で2.5万人を超え、重傷者も1888人と過去最多となっています。愛知をはじめ、山形、群馬、岐阜、三重、広島、高知、大分、宮崎の9県で過去最多、各地で爆発的感染が止まりません。菅首相や今の政府ではリーダーシップを発揮することはできず、国民や企業へのお願いベースしか打つ手はありません。菅首相は、先日の会見で「新型コロナウイルスの感染拡大防止を最優先に取り組む」(実際には「新型コロナウイルスの感染拡大を最優先に取り組む」と言い間違いましたが)と言っていますが、五輪強行開催、パラ学校観戦など、まさに言い間違えた言葉の通り、「感染拡大させるべく取り組んでいる」としか思えません。こうした首相をトップに据えていなければならない国民は不幸です。

さて、今日は、ビジネス関連の本からは離れますが、飲茶著「史上最強の哲学入門」(河出文庫を紹介します。著者は、東北大学大学院を卒業後、哲学や科学の知識を、楽しく分かりやすく解説したブログを立ち上げ、人気を博しました。

哲学の世界では、強者の論を踏み台に、更なる強者が出現し、哲学者VS哲学者といった頭脳の格闘技が始まります。哲学の歴史は、こうした頭脳と頭脳の闘いの歴史です。

定番の哲学入門書では、「ソクラテスはいつどこで生まれ、『無知の知』と言った。その意味は…」という風に面白みのない内容で、すぐに読むのを止め本を閉じてしまいます。著者は、漫画「グラップラー刃牙」の熱烈なファンで、哲学に格闘を持ち込もうと考えるのです。格闘家が「強さ」に一生をかけるのなら、哲学者は「強い論」の追求に一生をかけたもの、両者に共通項があるということです。ある哲学者が強い論を展開すると、別の哲学者がやってきて、それと対立する更なる強い論を提示して叩き潰しに来る、哲学史は、強さと強さをぶつけ合い、研鑽してきた闘いの歴史です。

この本は、この闘いの歴史を、かみ砕いた分かりやすい言葉で解説してくれています。

この哲学というリングに登場するのは、31名の哲学者たちです。彼らは自身の「強い論」を武器に闘いを挑みます。相手は、別の「強い論」を引っ提げて登場する哲学者だけではありません。読者も闘いの相手です。打ち負かされないように自分の頭で考え論破しなければなりません。

ビジネスも同じです。ビジネスというリングで、企業が持続的成長を遂げ生き残るための闘いです。他社に打ち勝つために競争優位な戦略を練り、それを武器に戦い、勝ち続けなければなりません。哲学も真剣勝負ならビジネスも真剣勝負です。哲学の闘いに目を向け、哲学者たちの闘い方を知ることは、ビジネスの世界で闘うためにも役に立つように思います。

この哲学バトルは、第1ラウンドから第4ラウンドまで続きます。

第1ラウンド 真理の「真理」―絶対的な真理なんて、ホントウにあるの?

 真理を目指して何が悪い!人間として生まれたからには、誰だって一度は「絶対的真理」を求める。「真理」など一度も夢見たことがない、そんな人間は一人として、この世に存在しない!それが「真理」だ!ある者は生まれてすぐに!ある者は厳しい現実に!ある者は難解な学問に屈して!それぞれが真理をつかむことを諦め、それぞれの道を歩んだ!しかし、最後まで諦めなかった者がいる!この地上で誰よりも、誰よりも真理を望んだバカ野郎たちが!

【古代】 相対VS絶対

  • プロタゴラス 相対主義=絶対的真理なんてそんなものはない。価値観なんて、人それぞれさ
  • ソクラテス 無知の知=無知を自覚することが真理への第一歩 鞭を自覚してこそ、真理を知りたいという願う熱い気持ちが生まれる 

【近代】 真理を目指した男たちの挑戦

  • デカルト 方法的懐疑=絶対に疑えない確実なものとは?「われ思う ゆえにわれあり」ありとあらゆるものを疑うことはできる。だが、「疑っている私」の存在は否定できない
  • ヒューム 懐疑論=神も科学も思い込みに過ぎない。すべての認識や概念は経験に由来しており、その経験と現実世界が一致している保証はどこにもない。
  • カント 批判哲学=経験の内容は人それぞれだが、経験の受け取り方には、人類共通の一定の形式がある。その共通の形式に基づく範囲内では、人間として普遍的な真理、学問を打ち立てることは可能である。真理とは人間によって規定されたものである。
  • ヘーゲル 弁証法=闘争こそが真理に到達する方法である。対立の中から新しい考えを生み出していくやり方が弁証法弁証法を延々と続けていけば、最後には「最も優れた真理」「究極の真理」が見つかるはずだ。

【現代】真理の正体が明らかに!?

  • キルケゴール 実存主義=個人がそのために死ねるもの、それこそが真理だ。私にとって真理だと思えるような真理。私がそのために生き、そのために死ねるような真理。そういう真理を見つけることこそが重要だ。
  • サルトル アンガージュマン=僕たちの手で人類を真理に導こうじゃないか。人間は自由の刑に処せられている。自由とは、何が正しいのか分からないのに「好きにしろ」と放り出されてしまった不安定な状態のことである。人間とは、何を選んでいいかわからない世界に、突然放り込まれ、「好きに選択しろ」と自由を強制され、その選択を失敗すれば責任を負わされる、という宿命を持ったものである。人間は「自由の刑」という呪いを背負いながらも、そこから目を背けずに自ら「決断」して強く生きていくべきだ。人類を理想の社会、真理に向かって進展させる歴史という大舞台に立ってみたらどうか。
  • レヴィ=ストロース 構造主義=真理は一つの方向で進むわけじゃない。歴史はそんなふうに一つの方向にだけ進展したりはしない。世界には様々な文化、価値観を持った社会が多数存在する。それらの文化や社会の間に優劣はないし、目指すべき唯一の文化、究極の社会なんてものもない。西洋が優れているというのは思い上がりにすぎない。
  • デューイ プラグマティズム=便利な考えを真理と呼べばいい。「愛とは何か、人間とは何か、物質とは何か、国家とは何か、その本質とは何なのか?」そんな結論の出ないことを延々と議論したって埒が明かないから、「その効果は何か」という実用的なことだけ問いかけよう。「Aを信じることが人間にとって有用性があるなら、Aの真偽によらず、Aは真理である」
  • デリダ 脱構築=到達できない真理を求めるのは不毛。分からないものはしょうがない。もう作者(話し手、書き手)の意図なんて、それほど気にしなくてもいいんじゃないか。読み手それぞれが文章を読んで(聞いて)、好きに解釈したらいいんじゃないか。それぞれの解釈が真理ってことでいいんじゃないか。話し手(書き手)中心の世界観から、聞き手(読み手)中心の世界観へ。
  • レヴィナス 他者論=私と「他者」との関係を成り立たせるもの。他者とは、私という存在を自己完結の独りぼっちから救い出してくれる唯一の希望であり、無限の可能性である。「他者」とは、「私」にとって「意図」の確実な疎通ができない不愉快で理解不可能な対象であると同時に、「問いかけ」が可能な唯一の存在でもある。「他者」に真理を問いかけることにより、新しい可能性、新しい価値観、新しい理論を無限に創造し続けることができる。

第2ラウンド 国家の「真理」—僕たちはどうして働かなきゃいけないの?

 絶対的な権力をふるう最凶の怪物「国家」。愚かな国民が選んだ政治家は、正しく国家を導くことができるのか?このような根本的懐疑は、はるか紀元前の昔からあった。その懐疑から真の国家を求める哲学者たちの探求の歴史があった。

【古代】 国家論を唱えた哲人たち

  • プラトン イデア論=哲学者こそ国家の支配者だ。イデアとは究極の理想の存在のことである。哲学者とは、そうした「究極の何か」を知ることを目標に定め、全人生を賭けて追及し続ける人間である。イデアを知ることができる優秀な哲学者が王になるべきである。もしくは王は哲学を学ぶべきである。
  • アリストテレス 論理学=国家は腐敗と革命を振り返す。イデア論では独裁者の暴走を招く。君主制独裁制になりやすく、貴族制は寡頭制になりやすく、民主主義は衆愚制になりやすい。政治体制には最良というものはなく、どれも堕落する可能性を秘めている。どんな政治体制であろうと、最良に保つ努力をせず腐敗させれば、必ず革命が起こり別の政治体制に移行する。

【近代】王VS人民 国家の主権はどっちだ

  • ホップス 社会契約論=国家とは恐怖を利用した安全保障システムである。国家とは、自己中心的な人間たちが互いに殺し合わないように、自己保存のために作った組織である。他者を殺す自由を放棄した見返りとして安全を得る。すなわち、国家とは、個人の自由を放棄して手に入れる安全保障システムなのだ。
  • ルソー 人民主権=国家の主権者は人民である。国家がなければ殺し合うというホップスの前提は間違っている。真の権力者は王ではなく、民衆である。国家は真の権力者である民衆から、権力を委任された、取り換え可能な一つの機関にすぎない。
  • アダム・スムス 見えざる手=個人が自分勝手に利益を追求しても、「見えざる手」に導かれて、社会全体の利益につながるような結果が生じるようになっている。

【現代】 幸せに生きるために必要なものは?

  • マルクス 共産主義=資本主義は必ず崩壊する経済システムである。資本主義は資本家が労働者を搾取する構図である。

第3ラウンド 神様の「真理」—神は死んだってどういうこと?

 神聖不可侵にして究極のタブー「神」。古来より人類は「神」を畏れ、敬い、さまざまな宗教を作り出してきた。だが、実際に神を見たものがいるだろうか?聖書を開けば、いくらでも奇跡を起こす「神」の姿を見ることができる。だが、そこにタブーを恐れず、「神」の正体を見極めようとする哲学者が現れた。

【古代】人が神に救いを求めた時代

  • エピクロス 快楽主義=神様のことなんか気にしなくていい。神様はいるかもしれないけど人間はそんなことをいちいち気にしなくていい。禁欲の果てに辿り着く境地なんてタカが知れている。幸せになりたくば快楽をむさぼれ。
  • イエス・キリスト 復活 汝の隣人を愛せよ。隣人を愛そう。敵でも愛そう。ただただ他者に優しくし、人間は、自分たちを創造してくれた神の愛を信じよう。

【中世】神学VS哲学 いきのこるのはどっち?

  • アウグスティヌス 懺悔=人間は神の恩寵なくしては救われない。唯一絶対の神は、やはり完璧な善の存在である。人間には悪が存在するように見えるが、実は、その悪とは、ただ善の不在にすぎない。人間は欲望を自制できないか弱い存在である。そんな罪深い人間は、ただ神の前にひれ伏すしかない。自ら罪深い存在であることを認め、神にすべてを告白し、許しを請い、神の慈悲によって救われるように祈るしかない。
  • トマス・アクィナス スコラ哲学=一番最初の最初の原因って、いったい何だろう?「原因と結果という関係を超越した何か」を想定しない限り解くことができない問題がある。それこそが信仰の世界の問題なのだ。

【現代】神が死んでも生きていく方法

  • ニーチェ 超人思想=宗教や道徳なんて弱者のルサンチマン 神は死んだ。神は、弱者のルサンチマン(恨み・嫉妬)が作り出したものである。神への信仰が人間本来の生を押し殺している。神が死んだ世界、神や道徳が絶対的な価値観とならない世界でわれわれはどう生きていけばいいのか?強くなりたいという「力への意志」こそが人間本来の素直な欲望であり、それを求めることこそが人生の本質である。「強くなりたいという意思をしっかりと自覚し、そこから目を背けない」どんなに障害があろうとも、ただひたすら、心に湧き上がる「力への意志」に従って、生命を燃やし続けることである。

第4ラウンド 存在の「真理」—存在するってどういうこと?

 「そこにモノがある」という当たり前のことを考えることで、哲学、科学、あらゆる学問が始まった。ある人は、原子や分子が集まってできたものがモノの正体だという。ある人は、人間の知覚から出来上がった像がモノの正体だという。だが、そもそも「モノがある」の「ある」とはどういうことなのだろう?

【古代】 存在の根源を求めた男たち

  • ヘラクレイトス 万物流転説=「存在」は変化する。この世界には、永遠不変の存在などありはしない。すべての形あるものは、いつかは壊れ、その形を変えて流れ去っていく。
  • パルメニデス 万物不変説=「存在」は不変である。「存在」とは決して変化しない「何か」である。存在するものは存在する。存在しないものは存在しない。存在しているものが、存在しなくなることはない。「有」は「無」にならない
  • デモクリトス 原子論=「存在」は原子でできている。モノを延々と分割していけば最後にそれ以上絶対に分割的ない粒「究極の存在」に辿り着く。その究極の存在が「原子」である。原子は決して変化しないが、その原子が一定の法則に従って結合したり分離したりすることで、万物が変化するように見えるだけだ。

【近代】存在とはモノ?それとも知覚?

  • ニュートン ニュートン力学=地上でも天空でも「存在」は同じ法則で動く 万有引力 「地上の運動」と「天空の運動」を統一的に扱い、予測できる科学の体系を一人で作った。
  • バークリー 主観的観念論=「存在」とは知覚することである。確固たる物質としてそこにあるから存在するのではなく、精神が知覚しているから存在しているのだ。

【現代】「存在する」という最大の謎への挑戦

  • フッサール 現象学的探究=あらゆる現象はどこから来るのか? 主観的な意識の上に起こるあらゆる体験を現象と呼び、この現象からどのような思い込みが作られているか学問的にとらえなおそうとした。「意識の上に起きていることは何か?」という根源的なところから始め、「こういう主観的な意識体験が生じるから、人間はこんな世界観や科学理論を持つに至った」というふうに、意識体験の観点から記述しなおすという壮大な試みを行った。
  • ハイデガー 存在論=「存在」とは人間の中で生じるもの 哲学は、今まで人や物事のありようを問いかけてきたが、最も大事な問いがある。それは「そもそも存在するとはどういうことか?」である。「存在」とは言葉であり、それを使っているのは人間である。「存在とは何か」という言葉の意味は「人間にとって存在とは何か」という問題に還元される。
  • ソシュール 記号論=世界を区別する 言語とは区別のシステムである。例えば、リンゴの「存在」というものは、リンゴという物質があるから存在しているのではなく、リンゴをリンゴと区別する価値観があってはじめて、そこに存在すると言える。その価値観を持っていない者にとっては、リンゴなどどこにも存在していないのだ。

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休日の本棚 成功の秘訣は氣にあり

f:id:business-doctor-28:20210605081443j:plainおはようございます。

昨日の新規感染者は全国で25,876人で、3日連続で過去最多を更新しました。その内訳は、東京5405人、神奈川2878人、埼玉1824人、千葉1778人、神奈川1347人、大阪2586人、兵庫907人、福岡1195人、沖縄743人、北海道523人などで、神奈川、千葉、大阪をはじめ15府県で過去最多となっています。1日の新規感染者数が100人を超えるのが33都道府県(うち1000人を超えるのが7都府県)というのは異常です。東京都の陽性率は24%を超えており、都のモニタリング会議は行政が把握できていない感染者が多数いる可能性を指摘しました。これは、東京に限らず、どの地域でも起こっていることではないかと懸念します。感染の中心は20~30歳代ですが、10歳代以下の子供にも感染者が増えており、彼らは比較的軽症なため感染に気付かず、ウイルスが家庭に持ち込まれて大人が感染するという事態になることが懸念されます。来週からパラリンピックが開催されます。私自身は「中止の英断をすべき」と考えますが、今の菅首相組織委員会では不可能なので、少なくとも「学校観戦」で感染を広めないように切に願います。

さて、今日は、藤平光一著「成功の秘訣は氣にあり」(東洋経済新報社を紹介します。著者の藤平氏は、日本の武道家で、心身統一合氣道の創始者です。以前紹介した中村天風に師事し、心身統一法を学び、合氣道と融合させ心身統一合氣道を立ち上げたのです。野球界では、王貞治広岡達朗松井秀喜松坂大輔ら、相撲界では千代の富士を指導するなど、多くのスポーツ選手に「氣」を教えています。

平氏は「氣」や「天地の理」を重んじ、心と体を一つにする「心身統一」が重要であるとし、多くの問題はそれを行う人が上手く「氣」を使いこなすことができていないことや、心と体が不統一の状態であることによってもたらされているとしました。心身統一合氣道は、その概念を体現化したものにすぎず、スポーツだけでなくビジネスや日常生活にも広く応用できるものだと言います。

「氣」というのは、日本や中国で色々な意味に使われます。変化・流動する自然現象(天気・空気など)、精神・生命・心の動き(元気・精気・気力・根気など)、その他(気配など)に大別されます。中国思想では、宇宙に充満する微細な物質で、しかも連続していて分解できず、万物を形成し、それに活力を与えるものとされています(百科事典マイペディア)。また、ブリタニア国際大百科事典では、「気は人間の心から独立で、宇宙に顕在し、それ自体活動力を持った共通普遍の質量であって、個々の物を凝集すれば物は生存し、散逸すれば物は死滅するとされた。中国では気の量的変化は考えられていない」としています。

平氏は、「この天地には、氣という素晴らしエネルギーが満ち溢れている。そのエネルギーは、もちろん私たちの体の中をも駆け巡っている。これを上手に利用すれば、ありとあらゆる人間の可能性が無限に広がっていくのだ。対人関係、健康、そしてビジネス……日々を明るくし、人生の成功をつかむことも可能になる」と言っています。

この本は次の5章で構成されています。

第1章 氣の出し方

第2章 ビジネスに活かす氣

第3章 成功のための五大原則

第4章 健康に活かす氣

第5章 自分でできる氣圧療法

ここでは、第1章の気の出し方第2章ビジネスに活かす氣について触れておきます。

1.心身統一の4大原則

 藤平氏によれば、氣というのは簡単の言えば宇宙エネルギーのことで、プラスの氣とマイナスの氣があるのです。自分にはできるというプラスの言葉を使いさえすれば宇宙エネルギーが活動します。ダメだと考えれば宇宙エネルギーが逆流して失敗するのです。プラスの思考、つまりポジティブ思考が大切だということです。しかし、世の中にはネガティブなこと、マイナスのことばかり考えてしまう人がいます。

 藤平氏は、心身統一の4大原則を守り、行っていけば、誰でも氣が出せるようになると言っています。

 【心身統一の4大原則】

  1. 臍下の一点に心を静め、統一する
  2. 全身の力を完全に抜く
  3. 身体のすべての部分の重みを、その最下部に置く
  4. 氣を出す

 この4大原則をすべて同時にやれということではありません。1つが完璧にできたなら、ほかの3つもすでにできているはずなのです。臍下の一点に心を静める状態になると、完全に力は抜けているし、重みも全部下に来て、必ず気が出ます。また、重みを下にできれば必ず氣は出ているし、心は臍下に静まり全身の力は抜けています。

 もう一つ重要なことは呼吸法です。

 【氣の呼吸】

  1. 息が洩れるのではなく吐く
  2. できるだけ静かな音で吐く
  3. 頭部の氣より吐き始め、つま先の氣まで吐く
  4. 鼻先より吸い、つま先から始まり頭部に充満するまで吸う
  5. 吸い終わったら臍下の一点に無限に沈める

2.ビジネスに活かす氣

  • 自分から「やれる」と思って氣を出せば、何も苦しいことなどない。まずは真剣にやってみることだ。どんな仕事でも、真剣に取り組むと、必ずその中に活路が見えてくる。これをやってやろうという対象が必ず出てくるものだ。真剣に取り組む時、一番楽にやるためには、氣をそこへ向けることだ。氣を向けないと疲れる。誰でも、好きなことに集中しているときには疲れなど感じない。好きになることは、物事に気を向けるということであり、気を向けるということは好きになることである。好きになればそこに意義を見出せるようになる。
  • 遊びと仕事はどちらもなくてはならないものである。遊びができない者は仕事もできない。遊びであれ仕事であれ、そこに向ける氣のエネルギーは同じプラスのものである。遊ぶ時には大いに遊べ、遊ぶ方向に全部の氣を向けろ。仕事をするときには仕事の方に全部の気を向けろ。それでこそ、真剣な人生を歩んでいける。
  • 「氣をつかう」という言葉があるが、氣をつかって、相手を思いやることが、ビジネスを成功させるための基本である。氣を出して、相手に氣を使っていたら、逆に氣が入ってきて成功するのだ。氣は他人のために使えば使うほど自分の体の中に入ってくる。企業でも、人の迷惑を無視して、自分の会社だけ利益が上がればいいという姿勢では育つことはできない。
  • ビジネスにおいて、成功の秘訣はプラス思考である。現代はアイデア、企画の時代である。物質はすでに満ち溢れているため、ライバルに差をつけようと思ったら企画力を磨かなければならない。このとき最も重要なことは心をプラスにすることだ。何かを企画しようとするのなら、自分はこれだけはやり遂げるんだと、まず心に決める。あれこれと悩むより、出来上がった状態を前提に考えること。それがプラス思考の第一歩だ。実際に始めれば、いろいろと困難にぶつかることもあるだろう。そんな時は、すべてを徹底的に検討して、ダメなものを排除していく。そうすると、最後にはできる方向へと自然と向かっていくものだ。氣を出すことが成功の第一歩、逆境のときこそ、氣を出してチャレンジしていかなければならない。
  • ホラを吹け! 「会社から10の仕事を割り当てられたなら、自分は30やって見せると、人前でホラを吹け」 仕事の結果などやってみなければわからない。ホラを吹かれて怒る人もそれほどいない。ホラ吹きだと思われるだけだ。それなら堂々とホラを吹け。30の目標は達成できなくても15くらいはできる。社員全体がホラを吹けば会社の業績は飛躍的に伸びる。
  • 企画とは発想である。いい発想を得るには、天地の心を借りればいい。自然体、即ち氣が出ている状態で心の波を静めていくのだ。頭でこね回しているうちは絶対碌なアイデアは出てこない。もちろんその前段階として、ぎりぎりまで徹底的に考えて検討する。さんざん考えてどうしても出てこなければ、まずは座って「氣の呼吸」をし、心を静めるようにする。
  • 発想の心得5原則
  1. 氣の出ている人になる
  2. 天地自然を信じる人になる
  3. 物事にこだわらない
  4. 何事にも不思議と思う心を持つ
  5. 思いついたことは、一生涯続けるつもりで考える
  • セールスの五原則を励行せよ
  1. そのものの値打ちを知る
  2. プラスの氣で行う
  3. 買ってくれではなく相手のためになることを信じる
  4. 必ずアフターケアをする
  5. 売れないときも、帰るときに相手にプラスの心を置いてくる
  • 経営者の心得
  1. 経営者は常にプラスでなければならない。トップがマイナスになると、部下もみんなマイナスになってしまう。
  2. 経営者は判断を誤ってはいけない。経営者が判断を誤ると、従業員の家族までみんなが犠牲になる。
  • 重要な岐路での判断ほど、経営者にとってつらいものはない。特に今の時代、何がどう変わっていくかわからない、先の読めない時代である。だからこそ、より一層正確な判断が必要とされ、経営者の責任はますます重くなってくる。そのとき、心を無限に静め、天地の声を聞くことである。まずは本気になって考えることである。最初は様々な考えが心の中を駆け巡る。だが、波立つ水面が、時間とともに静まっていくように、少しずつ心の波も静まっていく。心が無限小に静まったとき、天地からの声が心の中に映るはずだ。もちろん、天から、ああしろこうしろと教えてくれるはずはない。心の波を静め切ったときに映った心、その心には間違いはない。土壇場になったら、右往左往せず、黙って座り氣の呼吸をして心身統一の状態になることだ。

平氏は、「これからのビジネスは理性ではなく、天地に直結する心(藤平氏は『霊性心』と呼びます)で行わなければならない」と言います。「霊性心」という言葉を聞くと、超自然的な力のように思えますが、「氣」は自然界に普通に存在するエネルギーだと思います。昨日も書きましたが、企業経営は利益の追求を第一義とするものではなく、「事業を通じて世の中をよくするためにある」のです。

氣を出して、相手に気をつかい、相手のことを第一義に考える、これがビジネスの基本です。つまりお客様第一主義です。また、そうすることで世の中全体が良くなります。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という近江商人の「三方よし」の経営もこのことを示しています。この「三方よし」の経営は、伊藤忠商事の創業者伊藤忠兵衛が、近江商人の先達への尊敬の念を込めた「商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れも益し、世の不足をうずめ御仏の心にかなうもの」という言葉に端を発しているのです。

この本の藤平氏の「氣を活かした経営」も稲森氏の「人間中心の経営」も「近江商人三方よしの経営」も基本はすべて同じだと思います。

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